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法事讃 (七祖)

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2010年5月24日 (月) 19:37時点における林遊 (トーク | 投稿記録)による版

現存する善導大師の五部九巻の著作のうち、『観経疏』(「本疏」「解義分」)以外の4部(『法事讃』『観念法門』『往生礼讃』『般舟讃』)はいずれも浄土教の儀礼・実践を明らかにしたものであるので、「具疏」とも「行儀分」とも呼びならわされている。

 本書は、『阿弥陀経』を読誦讃嘆して仏座の周囲を繞道し、浄土を願生する法会の規式を明かした書で、上下2巻よりなる。上巻はその首題を『転経行道願往生浄土法事讃』とおき、尾題を『西方浄土法事讃』と示している。下巻は首尾ともに『安楽行道転経願生浄土法事讃』と題している。

 内容の上から見ると、全体は前行法分、転経分、後行法分の3段よりなっているものと考えられる。前行法分では、『阿弥陀経』読誦に先立つ儀礼としての三宝の召請や懺悔の次第などが説かれている。転経分では、『阿弥陀経』の本文が17段に分けられ、各段ごとに讃文を付して、これを読誦唱和する作法の次第が示されている。後行法分では、経の読誦後の儀礼としての懺悔や歎仏呪願などが明かされている。

 本書は、浄土教における壮麗な別時の行儀を示したものとして注目されるが、同時に善導大師の『阿弥陀経』に対する見方が窺えるものとして教学の上からも重要な意味を持っている。

法事讃

巻上

   転経行道願往生浄土法事讃 巻上

                           沙門善導集記


【1】

四天王を奉請す。ただちに道場のなかに入りたまへ。
師子王を奉請す。師子また逢ひがたし。
身の毛衣を奮迅するに、衆魔退散して去る。
頭を回して法師を請ず。ただちに涅槃の城を取らん。

【2】  序していはく、

 ひそかにおもんみれば、娑婆広大にして火宅無辺なり。六道にあまねく居し て重昏永夜なり。生盲無目にして慧照いまだ期せず。引導無方なれども、とも に死地に摧く。循還来去して逝水長流に等し託命投神して、たれかこれを よく救はん。これすなはち識含無際にして、窮塵の劫さらに踰えたり。自爾悠 悠として勝縁に遇ふこと、これいづれの日ぞ。

 上海徳初際如来よりすなはち今時の釈迦に至る諸仏、みな弘誓に乗じて悲智 双行し、含情を捨てずして三輪あまねく化したまふ。しかるにわれ無明の障重 くして、仏出でたまへども逢はず。たとひ同生すれどもまた覆器のごとし。[[神 光]]等しく照らして四生を簡ばず。慈及びて偏なく、みな法潤に資す。法水に沈 むといへども、長劫に頑ななるによりて苦・集あひより、毒火時に臨みてまた 発る。

 仰ぎておもんみれば、大悲の恩重くして等しく身田を潤し、智慧冥に加して 道芽増長す。慈悲方便をもつて視教よろしきに随ひ、勧めて弥陀を念ぜしめ、 浄土に帰せしめたまふ。地はすなはち衆珍雑間して、光色競ひ輝き、徳水澄み、 華玲瓏として影徹る。宝楼重接して等しく神光を輝かし、林樹を垂れて風 塵雅曲あり。華台厳瑩して種々希奇なり。聖衆同じく居して、あきらかなるこ と千日に踰えたり。身はすなはち紫金の色、相好儼然たり。進止往来、空に乗 じて無礙なり。もし依報を論ずれば、すなはち十方に超絶す。地上・虚空等し くしてみな異なることなし。他方の凡聖、願に乗じて往来す。かしこに到りぬ れば、殊なることなく斉同に不退なり

 ただおもんみれば、如来の善巧総じて四生を勧め、この娑婆を棄てて極楽に 生ずることを欣はしめ、もつぱら名号を称し、兼ねて『弥陀経』を誦せしめた まふ。かの〔浄土の〕荘厳を識り、この〔娑婆の〕苦事を厭ひて、三因・五念[[畢 命を期となし]]、正助・四修すなはち刹那も間なく、この功業を回してあまねく 含霊に備へて、寿尽くれば台に乗じて斉しくかの国に臨ましめんと欲すればな り。

【3】 おほよそ自のためにせんと欲し、他のためにせんと欲して道場を立せば、 先づすべからく堂舎を厳飾して尊像・幡華を安置しをはりて、衆等多少を問ふ ことなく、ことごとく洗浴して浄衣を着し、道場に入りて法を聴かしむべし。 もし召請せんと欲する人および和讃のものはことごとく立し、大衆は坐せし めて、一人をして先づ焼香・散華を須ゐ、周匝一遍せしめをはりて、しかして 後によりて声をなして召請していへ。

【4】:般舟三昧楽[願往生]

大衆心を同じくして三界を厭へ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
三塗永く絶えて願はくは名すらなからん[無量楽]

三界は火宅にして居止しがたし[願往生]
仏の願力に乗じて西方に往かん[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
慈恩を報ずることを念じてつねに頂戴せよ[無量楽]

【5】:大衆華を持して恭敬して立し[願往生]

先づ弥陀を請じたてまつる道場に入りたまへ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
弘願に違せず時に応じて迎へたまへ[無量楽]
観音・勢至・塵沙の衆[願往生]
仏(阿弥陀仏)に従ひ華に乗じて来りてに入りたまへ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
観音手を接りて華台に入らしめたまへ[無量楽]
無勝荘厳の釈迦仏[願往生]
わが微心を受けて道場に入りたまへ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]

身を砕きても釈迦の恩を慚謝せん[無量楽]
かの国の荘厳大海衆[願往生]
仏(釈尊)に従ひ華に乗じて来りて会に入りたまへ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
仏の神化を助けて衆生を度す[無量楽]
十方恒沙の仏舌を舒べて[願往生]
われ凡夫の安楽に生ずることを証したまふ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
悲心利物の大悲心なり[無量楽]
慚愧す恒沙の大悲心[願往生]
わが微心を受けて道場に入りたまへ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
専心に浄土の仏前を期す[無量楽]
一々の如来の大海衆[願往生]
仏に従ひ華に乗じて来りて会に入りたまへ[無量楽]

般舟三昧楽[願往生]
ことごとくこれ往生の増上縁なり[無量楽]
仏二十五菩薩をして[願往生]
一切の時に来りてつねに護念せしめたまふ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
畢命してただちに涅槃の城に入らん[無量楽]
仏は恐れたまふ衆生に四魔の障ありて[願往生]
いまだ極楽に至らずして三塗に堕することを[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
直心をもつて実に行ずれば仏迎来したまふ[無量楽]
われいま衆等深く慚謝す[願往生]
わが微心を受けて来りてに入りたまへ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
心々専注して娑婆を出でん[無量楽]

【6】:本国の弥陀もろもろの聖衆[願往生]

平等にともに来りて道場に坐したまへ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
道場の聖衆実に逢ひがたし[無量楽]
衆等弥陀会頂礼して[願往生]
あまねく香華を散じて同じく供養したてまつらん[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
弥陀の光往生人を摂す[無量楽]

【7】:仏弥陀の涅槃会に対して[願往生]

おのおの誓願を発して華台を請ず[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
極楽の荘厳の門ことごとく開けたり[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
専心に念仏すれば華台に坐す[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
華に乗じてただちに入ること疑ふべからず[無量楽]

【8】:衆等心を斉しくして高座を請ず[往生楽]

慇懃智影して尊経を説け[往生楽]
難思議[往生楽]双樹林下[往生楽]難思[往生楽]
道場の時逢ひがたく遇ひがたし[往生楽]
無常迅速にして命停まりがたし[往生楽]
難思議[往生楽]双樹林下[往生楽]難思[往生楽]
眼前の業道、人々見る[往生楽]
みな三毒によりて因縁をなす[往生楽]
難思議[往生楽]双樹林下[往生楽]難思[往生楽]
人身を得たりといへどもつねに闇鈍にして[往生楽]
貪瞋・邪見うたた専にして専なり[往生楽]
難思議[往生楽]双樹林下[往生楽]難思[往生楽]
日夜に惛々として惺悟せず[往生楽]
還りてこれ三塗に流浪する因なり[往生楽]
難思議[往生楽]双樹林下[往生楽]難思[往生楽]

たちまちに長劫の苦に輪廻しなば[往生楽]
弥陀の浄土いづれの時にか聞かん[往生楽]
難思議[往生楽]双樹林下[往生楽]難思[往生楽]
大衆心を同じくして高座を請ず[往生楽]
群生を度せんがために法輪を転ぜよ[往生楽]
難思議[往生楽]双樹林下[往生楽]難思[往生楽]
衆等心を傾けて法を聞くことを楽ひて[往生楽]
手に香華を執りてつねに供養したてまつらん[往生楽]
難思議[往生楽]双樹林下[往生楽]難思[往生楽]

【9】:道場の大衆裏あひともに心を至して敬礼し、

常住の仏に南無したてまつる。
道場の大衆裏あひともに心を至して敬礼し、
常住の法に南無したてまつる。
道場の大衆裏あひともに心を至して敬礼し、
常住の僧に南無したてまつる。

【10】 敬ひてまうす。道場の衆等おのおの心を斂めて弾指合掌し、頭を叩きて、 本師釈迦仏、過・現・未来のもろもろの世尊を帰命し礼したてまつる。仏に帰 依したてまつる所以は、仏はこれ衆生の大慈悲の父、またこれ出世増上の良縁 なればなり。その恩徳をはかりみれば、塵劫に過ぎてこれを述ぶとも尽しがた し。『賢愚経』(意)にのたまはく、「一々の諸仏初発意より終り菩提に至るま で、専心に法を求めて、身財を顧みず、悲智双行して、かつて退念なし」と。 あるいは人の逼め試みるに逢ひて皮肉分張を可し、あるいはみづから身を割き て鴿の命を延べ、あるいは千頭を捨ててもつて法を求む。あるいは千の釘を釘 ちて四句を求め、あるいは身血を刺してもつて夜叉を済ひ、あるいは妻子を捨 ててもつて羅刹に充つ。あるいは慈悲方便を設けて、化して禽魚となりてもつ て蒼生を済ひてその飢難を免れしむ。あるいは金毛の獅子となりてもつて猟師 に上め、あるいは白象となりて牙を抽き、菩提を求めんがために〔猟師に〕奉 施す。あるいは怨家を観ることなほ赤子のごとく、あるいは外道を現ることた とへば親児のごとし。彼我殊なることなし。聖凡なんぞ異ならん。三祇の起行 みな無漏と相応す。地々に功を収めて、はじめて果円かなることを得るを仏と 号く。身はすなはち閻浮金光色千日の競ひ暉くに喩ふ。相好分明なり。たと へば衆星の夜朗らかなるがごとし。跏趺正坐して不背の相円明なり。法界同じ く帰して、おのおの如来の面相を覩たてまつる。身心湛寂にして、化用時機を 失せず。類に随ひて変通すれども、報体すなはちもとより不動なり。ただおも んみれば如来の智徳これを嘆ずるに尽しがたし。道場の衆等おのおの慚謝の心 を生ずべし。よく諸仏のわがために捨身せしめたまふこと、塵劫よりも過ぎた り。哀しきかな、世尊よく難事をなして、長劫に勤々として疲労の苦痛を忍び たまふ。またのために苦行すといへども、小恩を覓めず、等しく塵労を出で 菩提に会して彼岸に帰することを望欲したまふ。衆等、心を斉しくしていまの 施主某甲等のために、十方諸仏、一切の世尊を奉請す。

【11】 弟子等敬しく諸仏の境界を尋ぬるに、ただ仏のみよく国土の精華を知 りたまへり。凡の測るところにあらず。三身の化用みな浄土を立して、もつて 群生を導きたまふ。法体殊なることなければ、有識これに帰して悟を得。ただ 凡夫の乱想寄託するに由なきがためのゆゑに、釈迦・諸仏慈悲を捨てずして、 ただちに西方十万億刹を指さしむ。国を極楽と名づけ、仏を弥陀と号く。現に ましまして説法したまふ。その国清浄にして四徳の荘厳を具せり。永く譏嫌 を絶ち、等しくして憂悩なし。人天善悪みな往生を得。かしこに到りぬれば、 殊なることなく斉同に不退なり。なんの意かしかるとならば、すなはち[[弥陀の 因地]]に、世饒王仏の所にして位を捨てて家を出で、すなはち悲智の心広弘の四 十八願を起したまふ。仏願力をもつて五逆と十悪と罪滅して生ずることを得、 謗法と闡提と回心してみな往くによる。また韋提請を致して娑婆を捨つること を誓ひ、念々に遺るることなく決定して極楽に生ずることを求め、如来(釈尊) その請によるがゆゑに、すなはち定散両門、三福・九章を説きて、広く[[未聞 の益]]をなすによる。十方恒沙の諸仏ともに釈迦を讃じて舌を舒べてあまねく[[三 千]]に覆ひて往生を得ることの謬りにあらざることを証したまふ。かくのごとき 等の諸仏世尊、慈悲を捨てずしていまの施主某甲および衆生の請を受けて、こ の道場に入りて功徳を証明したまへ。奉請しをはりぬ。いま勧む、衆生等お のおの心を斂めて帰依し合掌したてまつれ。

【12】 下座、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。衆等ことごとく本師釈迦仏、十方世 界のもろもろの如来に帰命したてまつる。願はくは施主衆生の請を受けて、慈 悲を捨てずして道場に入りて、功徳を証明し諸罪を滅したまへ。心を回らし 念を一にして弥陀を見たてまつらん。衆等、身心みな踊躍して、手に香華を執 りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【13】 高、下に接ぎて請召していへ。

 かさねてまうす。道場の大衆等おのおの心を斂めて弾指合掌し、頭を叩きて 一心に帰命し、いまの施主および衆生のために、次にまさに十方法界の諸仏所 説の修多羅蔵八万四千を奉請し、また全身・散身の舎利等を請じたてまつるべ し。ただ願はくは大神光を放ちて、この道場に入りて功徳を証明したまへ。 また十方の声聞・縁覚・得道の聖人を請じたてまつる。ただ願はくは慈悲を捨 てず、大神通を現じて、この道場に入りて功徳を証明したまへ。またまさに もろもろの菩薩衆、普賢・文殊・観音・勢至等を奉請すべし。ただ願はくは慈 悲を捨てず、衆生の願を満てしめて、この道場に入りて功徳を証明したまへ。 帰依し奉請する所以は、このもろもろの菩薩初発意よりすなはち菩提に至るま で、つねに平等を行じて接引偏なく、自利利他時としてしばらくも息むことな し。つねに法音をもつてもろもろの世間を覚せしむ。光明あまねく無量の仏土 を照らし、一切の世界六種に震動す。総じて魔界を摂し魔の宮殿を動かす。[[邪 網を掴裂し]]、諸見を消滅し、もろもろの塵労を散じ、もろもろの欲塹を壊す。 法門を開闡して清白を顕明し、仏法を光融して正化を宣流す。つねに不染の 身口意業をなし、つねに不退の身口意業を行じ、つねに不動の身口意業を行じ、 つねに讃嘆の身口意業を行じ、つねに清浄の身口意業を行じ、つねに離悩の 身口意業を行じ、つねに智慧の身口意業を行じ、覚悟成就し、定慧成就したま へばなり。このもろもろの菩薩は、つねにもろもろの天竜八部・人王・梵王等 のために守護・恭敬・供養せられたまへり。一切衆生の救となり、帰となり、 となり、尊となり、勝となり、上となりたまふ。無量の行願を具し饒益する ところ多し。天・人を安穏にし一切を利益す。十方に遊歩して権方便を行じ、 仏法蔵に入りて彼岸を究竟す。智慧聖明なること不可思議なり。仏の[[法輪を 転じ]]、如来の一切種智を成就す。一切の法においてことごとく自在を得たまへ り。かくのごとき等の菩薩大士称計すべからず。ただ願はくは慈悲を捨てずし て、衆生の請を受けて一時に来会して、この道場に入りていまの施主某甲のた めに功徳を証明したまへ。いま勧む、道場の衆等・人等心を斂めて帰依し合 掌して礼したてまつれ。

【14】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。衆等希に諸仏の法を聞く。[[竜宮の八 万四千蔵]]すでに神光を施して道場に入りて、功徳を証明しまた願を満てたま へ。これによりて苦を離れて弥陀を見たてまつらん。法界の含霊もまた障を除 かん。われら身心みな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養したてまつらん。

【15】 高、下に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。竜宮の経蔵恒沙のごとし。十方の仏 法またこれに過ぎたり。われいま心を標してあまねくみな請じたてまつる。大 神光を放ちて道場に入りて、功徳を証明しまた罪を除きて、施主の菩提の芽 を増長せしめたまへ。衆等おのおの心念を斉しくし、手に香華を執りてつねに 供養したてまつれ。

【16】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。今日の道場遇ふことを得ること難し。 無上の仏法また聞きがたし。畢命形枯までに諸悪を断ぜん。これより念々に 罪みな除こり、六根あきらかなることを得、惺悟することを得て、戒・定・慈 悲誓ひて虚しからじ。衆等、身心みな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養 したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【17】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。久しく娑婆に住してつねに没々たり。 三悪・四趣ことごとくみな停まる。毛を被り角を戴きて衆苦を受く。いまだか つて聖人の名を聞見せず。この疲労長劫の事を憶ひて誓願す、捨命して弥陀を 見たてまつらんと。衆等、身心みな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養し たてまつれ。

【18】 高、下に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。衆等ことごとく帰命して、いま施主 および衆生のために、すでに十方法界の、全身の舎利砕体の金剛を請じたて まつる。物利よろしきに随ひて形を分ちて影赴したまふ。また形大小に分れ たりといへども、神化一種にして殊なることなし。大はすなはち類するに山岳 に同じく、小はすなはち比するに芥塵のごとし。畢命まで真誠に心を斉しくし て供養したてまつれば、近くはすなはち人天に報を獲て富楽長劫に身に随ひ、 遠くはすなはち浄土の無生剋果す。すなはち涅槃の常楽なり。また願はくは道 場の衆等おのおの心を斉しくして、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

【19】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。真身舎利大小に随ひて、見聞し歓喜 して供養を修む。みづから作る善根、他人の福、一切合集してみな回向し、昼 夜に精勤してあへて退せず。専心に決定して弥陀を見たてまつらん。衆等、身 心みな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【20】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。普賢・文殊に弘誓願あり。十方の[[仏 子]]みなまたしかなり。一念に分身して六道に遍し、機に随ひて化度して因縁 断ぜしむ。願はくはわれ生々に親近することを得て、囲繞して法を聴きて[[真 門]]を悟り、永く無明生死の業を抜きて、誓ひて弥陀浄土の人とならん。衆等 おのおの身心を斉しくして、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

【21】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。十方の菩薩の大慈悲、身命を惜しま ずして衆生を度したまふ。六道に分身して類に随ひて現じ、ために妙法を説き て無生を証せしめたまふ。無生の浄土、人に随ひて入る。広大寛平にして[[比 量なし]]。四種の威儀つねに仏を見たてまつる。法侶携へ将て宝堂に入る。衆等、 身心みな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 下、高に接ぎて讃じていへ。

【22】 高、下に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。いまの施主および衆生のために賢聖 を奉請す。道場に入りて功徳を証明したまへ。供養を修したてまつらん。三 毒の煩悩これによりて滅し、無明黒闇の罪みな除こる。願はくはわれ生々に 諸仏に値ひたてまつりて、念々に道を修して無余に至らん。この今生の功徳業 を回し、当来畢定して金渠にあらん。衆等おのおの身心を斉しくして、手に 香華を執りてつねに供養したてまつれ。

【23】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。菩薩聖衆、身別なりといへども、慈 悲・智慧等しくして殊なることなし。身財を惜しまずして妙法を求め、難行苦 行していまだかつて休まず。誓ひて菩提に到り彼岸に登りて、大慈光を放ちて 有流を度したまふ。有流の衆生とはわが身これなり。光に乗じて畢命に西方に 入らん。衆等、身心みな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【24】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。いまの施主のために、みなすでに十 方の諸仏を請じたてまつる。道場に入りたまふ。竜宮の法蔵真舎利、すでに 神光を放ちて道場に入りたまふ。羅漢・辟支自在なり。一念に華に乗じて 道場に入りたまふ。普賢・文殊・諸菩薩、一切ともに来りて道場に入りたまふ。 このもろもろの聖衆雲のごとくに集まりて、地上・虚空量るべきこと難し。お のおの蓮華百宝の座に坐して、功徳を証明し慈光を放ちたまふ。かくのごと き聖衆に逢遇ふこと難し。同時に発願して西方に入らん。衆等、心を斉しくし てみな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

【25】 観世音を請じたてまつる讃にいはく、

観世音を奉請す[散華楽]
慈悲をもつて道場に降りたまへ[散華楽]
容を斂めて空裏に現じ[散華楽]
忿怒をもつて魔王を伏す[散華楽]
身を騰げて法鼓を振ひ[散華楽]
勇猛にして威光を現ず[散華楽]
手のなかに香色の乳あり[散華楽]
眉のあひだに白毫の光あり[散華楽]
宝蓋身に随ひて転じ[散華楽]
蓮華歩みを逐ひて祥ゆ[散華楽]
池には回れり八味の水[散華楽]

華は戒定の香を分てり[散華楽]
飢ゑては九定の食を餐し[散華楽]
渇しては四禅の漿を飲む[散華楽]
西方七宝の樹[散華楽]
声韻宮商に合ふ[散華楽]
枝のなかに実相を明かし[散華楽]
葉のほかに無常を現ず[散華楽]
願はくは閻浮の報を捨てて[散華楽]
発願して西方に入らん[散華楽]

【26】 高、下に接ぎて香華を請じていへ。

 かさねてまうす。道場の衆等おのおの心を斂めて弾指合掌し、頭を叩きて心 を標し想を運び、いま施主某甲等のために、十方法界の人天、凡聖、水・陸・ 虚空一切の香華・音楽・光明・宝蔵・香山・香衣・香樹・香林・香池・香水を 奉請す。この道場に入りたまへ。また一切の宝樹・宝林・宝衣・宝池・宝水・ 宝幢・宝蓋・宝華・宝網・宝楼・宝閣を請じたてまつる。この道場に入りたま へ。また一切の華林・華樹・華幢・華蓋・華楼・華閣・華宮・華殿・華衣を請 じたてまつる。この道場に入りたまへ。また一切の光雲樹・光雲林・光雲網・ 光雲衣・光雲蓋・光雲幢・光雲台・光雲楼・光雲閣・光雲楽・光雲香・光雲 池・光雲水・光雲山を請じたてまつる。この道場に入りたまへ。また一切の香 雲山・香雲衣・香雲樹・香雲林・香雲網・香雲蓋・香雲幢・香雲楼・香雲閣・ 香雲池・香雲水・香雲光・香雲楽・香雲華・香雲台を請じたてまつる。この道 場に入りたまへ。また一切の宝雲山・宝雲樹・宝雲華・宝雲果・宝雲衣・宝雲 幢・宝雲蓋・宝雲網・宝雲幡・宝雲楽・宝雲楼・宝雲閣・宝雲光明・宝雲天 衣・宝雲供養海を請じたてまつる。この道場に入りたまへ。また一切の華雲 山・華雲林樹・華雲幢蓋・華雲衣服・華雲羅網・華雲音楽・華雲台座を請じた てまつる。この道場に入りたまへ。また一切の天・人変化の荘厳供養海、一切 の声聞変化の荘厳供養海、一切の菩薩変化の荘厳供養海、一切の諸仏変化の荘 厳供養海を請じたてまつる。かくのごとき等の無量無辺恒沙の供養、種々の荘 厳ことごとくみな奉請す。この道場に入りたまへ。一切の仏と舎利ならびに真 法と菩薩・声聞衆に供養したてまつる。この香華雲荘厳供養海を受けたまへ。 施主衆生の願を満てんがために心に随ひて変現し、受用して仏事をなしたまへ。 供養しをはりぬ。人おのおの心を至して帰依し合掌して礼したてまつれ。

【27】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。願はくは弥陀会のなかにありて坐し、 手に香華を執りてつねに供養したてまつらん。

【28】 奉請すでに竟りて、すなはちすべからく行道七遍すべし。また一人をし て華をもつて西南の角にありて立ち、行道の人の至るを待ちてすなはちことご とく行華して行道の衆等に与へしめよ。すなはち華を受けをはりてすなはち散 ずることを得ざれ。しばらく待ちておのおのみづから心を標して供養したてま つれ。行道して仏前に至るを待ちて、すなはち意に随ひてこれを散ぜよ。散じ をはりてすなはち過ぎて、行華の人の所に至りてさらに華を受くることまた前 の法のごとくせよ。すなはち七遍に至るまでまたかくのごとし。もし行道しを はらば、すなはちおのおの本坐処によりて立ち、唱梵の声の尽くるを待ちてす なはち坐せよ。

【29】 高、下に接ぎて衆の行道を勧めてすなはちいへ。

 一切の香華を奉請して供養すでに訖りぬ。一切恭敬して道場の衆等おのおの 香華を執りて法のごとく行道せよ。

【30】 行道の讃梵の偈にいはく、

弥陀世尊を奉請す道場に入りたまへ[散華楽]
釈迦如来を奉請す道場に入りたまへ[散華楽]
十方の如来を奉請す道場に入りたまへ[散華楽]

【31】 道場の荘厳きはめて清浄なり。天上・人間比量なし

過・現の諸仏等の霊等、人・天・竜・鬼のなかの法蔵
全身・砕身の真舎利、大衆華を持してその上に散じ、
尊顔を瞻仰して繞ること七匝梵響の声等をもつてみな供養したてまつる。
願はくはわが身浄きこと香炉のごとく、願はくはわが心智慧の火のごとく
して、
念々に戒定の香を焚焼して、十方三世の仏を供養したてまつらん。
慚愧す釈迦大悲主、十方恒沙の諸世尊、
慈悲巧方便を捨てずして、ともに弥陀弘誓門を讃じたまへり。

弘誓多門にして四十八なれども、ひとへに念仏を標してもつともとなす。
人よく仏(阿弥陀仏)を念ずれば、仏また念じたまふ。専心に仏を想へば仏
人を知りたまふ。
一切、心を回して安楽に向かへば、すなはち真金功徳の身を見る。
浄土の荘厳・もろもろの聖衆、籠々としてつねに行人の前にまします。
行者見をはりて心歓喜し、終る時に仏に従ひて金蓮に坐し、
一念に華に乗じて仏会に到り、すなはち不退を証して三賢に入る。

【32】 下、梵人の声に接ぎて立して讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。道場の衆等、そこばくの人、歴劫よ りこのかた三界に巡り、六道に輪廻して休止することなし。希に道場の請仏会 を見て、親承して供養したてまつる。思議しがたし。七周行道して華を散じ をはりぬ。悲喜交流して滅罪を願ず。この善根に乗じて極楽に生じ、華開けて 仏を見たてまつりて無為を証せん。衆等、心を持ちて本座につき、手に香華を 執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【33】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。釈迦如来初め願を発せしより、たち まちに塵労を捨てて苦行を修し、念々に精勤して退くことあることなし。日月 および歳年を限らず、大劫・小劫・僧祇劫、大地等の微塵過踰せり。身財を 惜しまずして妙法を求め、慈悲誓願をもつて衆生を度し、あまねく勧めて西の かた安養国に帰せしめ、逍遥快楽にして三明を得しめたまふ。衆等おのおの身 心を傾けて、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

【34】 高、下に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。衆等、心を斉しくして渇仰を生じ、 慇懃に頂礼して楽ひて経を聞け。聖人も重んずるところ命に過ぎざるに、[[王位 を]]貪らずして千頭を捨つ。七寸の長釘体に遍して入れども、心を標しての ために憂ひを生ぜず。みづから身皮を取りて経偈を写し、あまねく群生をして 法流に入らしめんと願ず。千灯炎々として身血を流せば、諸天泣涙して華を散 じて周る。大士の身心の痛みを感傷すれば、微々笑みを含み願じて瞋りなし。 仰ぎ願はくは、同じく聞きて同じく悪を断ぜん。逢ひがたく遇ひがたし。誓ひ てまさにもつぱらなるべし。念々に心を回して浄土に生ぜんとすれば、畢命に かの涅槃の門に入る。おのおの心を傾けて異想なく、手に香華を執りてつねに 供養したてまつれ。

【35】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。曠劫よりこのかた生死に居して、三 塗につねに没して苦みな経たり。はじめて人身を服けて正法を聞く。なほ渇者 の清泉を得たるがごとし。念々に浄土の教を思聞して、文々句々に誓ひてまさ に勤むべし。長時流浪の苦を憶想して、専心に法を聴きて真門に入らん。浄土 の無生また別なし。究竟解脱の金剛身なり。この因縁をもつて高座を請じたて まつる。仏の慈恩を報じて法輪を転ぜよ。衆等、身心みな踊躍して、手に香華 を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【36】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。衆生、仏を見たてまつれば心開悟す。 発願して同じく諸仏の家に生ぜよ。この娑婆に住してよりこのかた久しく、功 なくして捨命すること劫塵沙なり。みづから覚るに、心頑く神識の鈍きは、ま ことに地獄にして銅車に臥せしによりてなり。銅車炎々として居止しがたし。 一念のあひだに百たび千たび死す。ただこのなかのみ苦痛多きにあらず。一切 の泥犂もまたかくのごとし。泥犂に一たび入りぬれば塵劫を過ぐ。畜生・鬼道 もまたかくのごとし。いま人身を得れども貪りて罪を造り、諸仏の聖教に[[非 毀]]を生ず。聖教を非毀すれば罪根深し。良善を謗説して苦につねに沈む。大 聖神通力ましますといへども、よくあひ救ふことなくしてますます悲心したま ふ。いま道場の時衆等に勧む。罪の無窮なるを発露懺悔せよ。衆等、心をかの 浄土に同じくして、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

【37】 高座、下座の声の尽くるを待ちてすなはち懺していへ。

 敬ひて道場のもろもろの衆等にまうす。いま施主某甲およびもろもろの衆生 のために、十方の諸仏・竜宮の法蔵・舎利・真形の菩薩大士・縁覚・声聞等に 帰命したてまつる。現に道場にましまして懺悔を証明したまへ。また天曹地府閻天子五道太山三十六王・地獄典領・天神・地神・虚空神・山林 河海一切の霊祇およびもろもろの賢聖等、各天通道眼・[[他心・宿命・漏尽 智]]ある人にまうす。現に道場にましまして、弟子今日の施主某甲およびもろも ろの衆生、心を披きて懺悔するを証明したまへ。弟子道場の衆等、内外そこ ばくの人、過去より過去際・現在際・未来際を尽して、身口意業行住坐臥に、 一切の三宝・師僧・父母・六親眷属・善知識・法界の衆生の上においてつぶさに 一切の悪を造る。つねに一切の悪を起し、相続して一切の悪を起し、方便して 一切の悪障・業障・報障・煩悩等の障、生死の罪障、仏法僧を見聞することを 得ざる障を起す。弟子衆等、曠劫よりこのかたすなはち今身に至り今日に至る まで、その中間においてかくのごとき等の罪を作る。楽行多作無量無辺なり。 よくわれらをして地獄に堕せしめて、出づる期あることなし。このゆゑに『経』 (観仏三昧経・意)にのたまはく、「阿鼻地獄、十八の寒氷地獄、十八の黒闇地 獄、十八の小熱地獄、十八の刀輪地獄、十八の剣輪地獄、十八の火車地獄、十 八の沸屎地獄、十八の鑊湯地獄、十八の灰河地獄、五百億の刀林地獄、五百億 の剣林地獄、五百億の刺林地獄、五百億の銅柱地獄、五百億の鉄鐖地獄、五百 億の鉄網地獄、十八の鉄窟地獄、十八の鉄丸地獄、十八の火石地獄、十八の飲 銅地獄、かくのごとき等の衆多の地獄あり。仏のたまはく、〈阿鼻地獄は[[縦広 正等]]にして八万由旬なり。七重の鉄城、七層の鉄網あり。下に十八の隔ありて、 周匝せること七重、みなこれ刀林なり。七重の城内にまた剣林あり。下に十八 の隔ありて、八万四千重あり。その四角に大銅狗あり。その身広長にして四十 由旬なり。眼は掣電のごとく、牙は剣樹のごとく、歯は刀山のごとく、舌は鉄 刺のごとし。一切の身毛よりみな猛火を出す。その煙臭悪にして世間の臭き 物、もつて譬ふべきなし。十八の獄率あり。頭は羅刹の頭のごとく、口は夜叉 の口のごとし。六十四の眼あり。眼より鉄丸を散迸すること十里車のごとし。 鉤れる牙は上に出でて、高さ四由旬なり。牙の頭より火流れて、前の鉄車を焼 く。鉄車輪の一々の輪輞をして化して一億の火刀・鋒刃・剣戟とならしむ。み な火より出でたり。かくのごとき流火阿鼻城を焼き、阿鼻城をして赤きこと[[融 銅]]のごとくならしむ。獄率の頭の上に八の牛頭あり。一々の牛頭に十八の角あ り。一々の角の頭よりみな火聚を出す。火聚また化して十八の輞となり、火輞 また変じて火刀輪となる。車輪ばかりのごとし。輪々あひ次いで、火炎のあひ だにありて阿鼻城に満てり。銅狗口を張り、舌を吐きて地に在く。舌は鉄刺の ごとし。舌出づる時、無量の舌を化し阿鼻城に満てり。七重の城内に四の鉄幢 あり。幢の頭より火流れて沸涌泉のごとし。その鉄流れ迸りて阿鼻城に満てり。 阿鼻に四門あり。門閫の上に八十の釜あり。沸銅涌き出でて、門より漫ち流れ て阿鼻城に満てり。一々の隔のあひだに八万四千の鉄蟒・大蛇ありて、毒を吐 き火を吐き、身城内に満てり。その蛇哮吼すること天の震雷のごとし。火鉄丸 を雨らして阿鼻城に満てり。この城の苦事は八万億千なり。苦のなかの苦なる もの集まりて、この城にあり。五百億の虫あり。虫に八万四千の嘴あり。嘴の 頭より火流れて、雨のごとくして下りて阿鼻城に満てり。この虫下る時、阿鼻 の猛火その炎大きに熾りなり。赤光の火炎八万四千由旬を照らす。阿鼻地獄よ り上、大海の沃燋山の下を衝くに、大海の水渧りて車軸ばかりのごとし。大鉄 炎となりて阿鼻城に満てり〉と。仏のたまはく、〈もし衆生ありて、三宝を殺 害し、三宝を偸劫し、三宝を汚染し、三宝を欺誑し、三宝を謗毀し、三宝を破 壊し、父母を殺害し、父母を偸劫し、父母を汚染し、父母を欺誑し、父母を謗 毀し、父母を破壊し、六親罵辱す。かくのごとき等の殺逆罪を作るものは、 命終の時、銅狗口を張り十八の車を化す。状金車のごとし。宝蓋上にあり、 一切の火炎は化して玉女となる。罪人はるかに見て心に歓喜を生じ、われなか に往かんと欲し、われなかに住せんと欲す。風刀解くる時、寒急にして声を 失ふ。《むしろ好火を得て車の上にありて坐し、火を燃やしてみづから爆らん》 と。この念をなしをはりてすなはち命終す。揮霍のあひだにすでに金車に坐 して、玉女を顧瞻すれば、みな鉄の斧を捉りてその身を斬截す。身下に火起る こと旋火輪のごとし。たとへば壮士の臂を屈伸するがごときあひだに、ただち に阿鼻大地獄のなかに落つ。上の隔より旋火輪のごとくして下の隔の際に至る。 身隔のうちに遍す。銅狗大きに吼えて骨を齧み、髄を唼ふ。獄率羅刹大きなる 鉄叉を捉る。叉、頸より体に遍する火炎を起さしめて阿鼻城に満つ。鉄網より 刀を雨らして毛孔より入る。化閻羅王大声をもつて告勅す。《痴人は獄種なり。 なんぢ世にありし時、父母に孝せず、邪慢無道なり。なんぢがいまの生処を[[阿 鼻獄]]と名づく。なんぢ恩を知らず、慚愧あることなくしてこの苦悩を受く。楽 しみとなすやいなや》と。この語をなしをはりてすなはち滅して現ぜず。その 時獄率また罪人を駆りて、下の隔よりすなはち上の隔に至るまで、八万四千の 隔のなかを経歴して、身をりて過ぎて鉄網の際に至る。一日一夜はこの閻 浮提の日月歳数六十小劫に当れり。かくのごとくして寿命一大劫を尽す。五逆 の罪人無慚無愧にして五逆罪を造作するがゆゑに、命終の時に臨みて、十八 の風刀鉄火車のごとくしてその身を解き截り、熱逼るをもつてのゆゑにすなは ちこの言をなす。《好色の華清涼の大樹を得て、下に遊戯せん。また楽しから ずや》と。この念をなす時、阿鼻地獄の八万四千のもろもろの悪剣林化して宝 樹となる。華菓茂盛し、行列して前にあり。大熱の火炎化して蓮華となりて、 かの樹下にあり。罪人見をはりて、《わが所願はいますでに果すことを得たり》 と。この語をなす時、暴雨よりも疾くして蓮華の上に坐す。坐しをはれば須臾 に鉄の嘴あるもろもろの虫、火華より起りて、骨を穿ちて髄に入り、心に徹り て脳を穿つ。樹に攀ぢて上れば、一切の剣枝肉を削り骨を徹す。無量の刀林上 よりして下らんとするに当り、火車・炉炭十八の苦事一時に来迎す。この相現 ずる時、地下に陥墜して、下の隔より上らんとすれば、身は華の敷くがごとく に下の隔に遍満す。下の隔より起る火炎猛熾にして上の隔に至る。上の隔に至 りをはりて、身そのなかに満てり。熱悩急なるがゆゑに、眼を張り舌を吐く。 この人罪のゆゑに万億の融銅、百千の刀輪空中より下りて頭より入りて足より 出づ。一切の苦事上の説に過ぎたること百千万倍なり。五逆を具せるもの、そ の人苦を受くること五劫を足満す〉」と。弟子道場の衆等、元身よりこのかた すなはち今身に至り今日に至るまで、その中間において三業をほしいままにし てかくのごとき等の罪を作る。楽行多作無量無辺なり。いま仏の、阿鼻地獄 を説きたまふを聞くに、心驚き毛竪ちて、怖懼無量にして慚愧無量なり。いま 道場の凡聖に対して発露懺悔す。願はくは罪消滅して永く尽きて余なからん。 懺悔しをはりぬ。心を至して帰命し阿弥陀仏を礼したてまつる。

 下、高に接ぎて讃じていへ。

 懺悔しをはりぬ。心を至して帰命し阿弥陀仏を礼したてまつる。

【38】 高、下に接ぎて懺していへ。

 弟子道場の衆等、曠劫よりこのかたすなはち今身に至り今日に至るまで、そ の中間において身口意業をほしいままにして一切の罪を造る。あるいは五戒・ 八戒・十戒・三帰戒・四不壊信戒・三業戒・十無尽戒・声聞戒大乗戒および 一切の威儀戒四重・八戒等を破し、虚しく信施を食み、誹謗・邪見にして因 果を識らず、学波若を断じ、十方仏を毀り、僧祇物を偸み、婬妷無道にして浄 戒のもろもろの比丘尼、姉妹・親戚を逼掠して慚愧を知らず、所親を毀辱しも ろもろの悪事を造る。あるいは十悪を楽行して十善を修せざる障、八苦を楽 行して八戒を持たざる障、三毒を楽行して三帰を受けざる障、五逆を楽行し て五戒を持たざる障、地獄極苦の業を楽行して浄土極楽を修せざる障、畜生・ 愚痴の業を楽行して智慧・慈悲を修せざる障、慳貪・餓鬼・嫉妬の業を楽行 して布施利他を行ぜざる障、諂曲虚詐・修羅の業を楽行して真実言[[信不相 違]]を行ぜざる障、瞋悩・殺害・毒竜の業を楽行して歓喜慈心を行ぜざる障、 我慢・自大・下賤・不自在の業を楽行して謙下・敬上・尊貴を行ぜざる障、 邪見・破戒・破見・悪見にして修善福なく造悪殃なしと謂へる外道・闡提の業 を楽行して正見禁行出世往生浄土を行ぜざる障、三宝を破滅し人の善事を 壊する悪鬼の業を楽行して三宝を護惜し人の功徳を成じ具足することを行ぜ ざる障、三界人天の長時縛繋の業を楽受して浄土の無生解脱を貪はざる障、二 乗狭劣の業を楽受して菩薩広大の慈悲を行ぜざる障、悪友に親近する業を楽 行して諸仏・菩薩・善知識に親近することを楽はざる障、六貪・六弊の業を楽 行して六度・四摂を行ぜざる障、因果を識らざる觝突の業を楽行して身中に 如来仏性あることを知らざる障、一切衆生酒・肉・五辛貪噉する多病・短命 の業を楽行して慈心に仏法僧を楽聞し香華供養を行ぜざる障、かくのごとき 障罪みづからなし他を教へ、作を見て随喜し、もしはことさらになし、誤りて なし、戯笑してなし、瞋嫌してなし、違順愛憎してなすこと無量無辺なり。思 量すとも尽すべからず、尽すべからず。説くとも説くべからず。また大地微塵 の無数、虚空の無辺、法界の無辺、法性の無辺、方便の無辺なるがごとく、わ れおよび衆生の造罪もまたかくのごとし。かくのごとき等の罪、上諸菩薩に至 り下声聞・縁覚に至るまで、知ることあたはざるところなり。ただ仏と仏との みすなはちよくわが罪の多少を知りたまへり。

【39】 『地獄経』にのたまはく、「もし衆生ありてこの罪を作るものは、命終 の時に臨みて風刀身を解く。偃臥定まらず楚撻を被るがごとし。その心荒越 にして狂痴の想を発す。おのが室宅を見れば、男女・大小一切みなこれ不浄の 物なり。屎尿臭処ほかに盈流す。その時に罪人すなはちこの語をなす。〈いか んがこの処に好き城郭および好き山林のわれをして遊戯せしむるものなくして、 すなはちかくのごとき不浄物のあひだに処せしむる〉と。この語をなしをはれ ば、獄率羅刹大きなる鉄叉をもつて阿鼻獄およびもろもろの刀林を擎ぐるに、 化して宝樹および清涼の池となる。火炎は化して金葉の蓮華となる。もろも ろの鉄の嘴ある虫は、化して鳧・雁となる。地獄の痛声は歌詠の音のごとし。 罪人聞きをはりて、〈かくのごとき好処にわれまさになかに遊ぶべし〉と、念 じをはれば尋時に火蓮華に坐す。もろもろの鉄の嘴ある虫、身の毛孔よりその 躯を唼ひ食ひ、百千の鉄輪頂上より入る。恒沙の鉄叉をもつてその眼精を挑 る。地獄の銅狗百億の鉄狗を化作して、競ひてその身を分ち心を取りて食らふ。 俄爾のあひだに、身鉄華のごとくして十八の隔のなかに満てり。一々の華葉八 万四千なり。一々の葉頭、身手支節なり。一の隔のあひだにあり。地獄も大な らず、この身も小ならず、かくのごとき大地獄のなかに遍満す。これらの罪人 この地獄に堕して八万四千大劫を経歴す。この泥犂に滅して、また東方の十 八の隔のなかに入りて前のごとく苦を受く。この阿鼻獄の南にまた十八の隔、 西にまた十八の隔、北にまた十八の隔あり。方等経を謗り、五逆罪を具し、[[僧 祇]]を破壊し、比丘尼を汚し、もろもろの善根を断ずるかくのごとき罪人、衆罪 を具せるもの、身は阿鼻獄に満ち、四支はまた十八の隔のなかに満つ。この阿 鼻獄はただかくのごとき獄種の衆生を焼く。劫尽きんと欲する時、東門すなは ち開く。東門の外を見れば、清泉・流水、華菓・林樹一切ともに現ず。このも ろもろの罪人下の隔より見るに、眼に火しばらく歇む。下の隔より起ちて[[婉転 腹行]]して、身をりて上に走りて上の隔のなかに到り、手に刀輪を攀づ。時に 虚空のなかに熱鉄丸を雨らす。東門に走り趣きてすでに門閫に至れば、獄率羅 刹手に鉄叉を捉りて、逆にその眼を刺し、鉄狗、心を齧む。悶絶して死す。死 しをはりてまた生ず。南門を見れば開けたり。前のごとくして異ならず。かく のごとくして西門・北門もまたみなかくのごとし。かくのごとき時のあひだに 半劫を経歴す。阿鼻獄に死して寒氷のなかに生じ、寒氷獄に死して黒闇処に 生ず。八千万歳目に見るところなし。大蛇の身を受けて婉転腹行し、諸情闇塞 にして解知するところなし。百千の狐狼牽掣してこれを食らふ。命終の後に畜 生のなかに生じて、五千万身鳥獣の形を受く。また人中に生じて、[[聾盲瘖瘂・ 疥癩癰疽]]・貧窮下賤にして、一切の諸衰、もつて厳飾となす。この賤身を受け て五百身を経、後にまた餓鬼のなかに生ずることを得。かくのごとき等の三悪 に輪廻すること無量無辺なり」と。弟子衆等いま地獄を聞きて、心驚き毛竪ち て、怖懼無量なり。おそらくは残殃尽きずしてまた流浪することを。今生より このかた三業をほしいままにして、もろもろの重罪を造る。もし懺悔せずは、 さだめてこの苦を招きて出づる期あることなからん。

【40】 いま三宝・道場の大衆の前に対して発露懺悔す。すなはち安楽ならん。 知りてあへて覆蔵せず。

【41】 ただ願はくは十方の三宝、法界の衆生、大慈悲広大慈悲を発して、わが 悪を計らずして、草の地を覆へるがごとく布施し歓喜し、わが懺悔を受け、わ が清浄を憶したまへ。ただ願はくは慈悲を捨てずしてわれらを摂護し、已作 の罪は願はくは除滅し、未起の罪は願はくは生ぜしめず。已作の善は願はくは 増長し、未作の善は方便して生ぜしめたまへ。願はくは今日よりすなはち[[不起 忍]]に至るまでこのかた、誓ひて衆生とともに邪を捨てて正に帰し、菩提心を発 して慈心をもつてあひ向かひ、仏眼をもつてあひ看て、菩提まで眷属として、 真の善知識として、同じく浄土に生じ、すなはち成仏に至るまで、かくのごと き等の罪永く相続を断じて、さらにあへて覆蔵せざらん。発願しをはりて心を 至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

【42】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。願はくは弥陀仏の前にありて立し、 手に香華を執りてつねに供養したてまつらん。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。願はくは弥陀会のなかにありて坐し、 手に香華を執りてつねに供養したてまつらん。





西方浄土法事讃 巻上

  1. 1法事讃
  2. 2巻下
 安楽行道転経願生浄土法事讃 巻下
 沙門善導集記


【43】 高座入文。

 「かくのごとくわれ聞きたてまつりき。一時、仏、舎衛国の祇樹給孤独園に ましまして、大比丘の衆、千二百五十人とともなりき。みなこれ大阿羅漢なり。 衆に知識せらる。長老舎利弗・摩訶目犍連・摩訶迦葉・摩訶迦旃延・摩訶倶絺 羅・離婆多・周利槃陀伽・難陀・阿難陀・羅睺羅・驕梵波提・賓頭盧頗羅堕・ 迦留陀夷・摩訶劫賓那・薄拘羅・阿楼駄、かくのごとき等のもろもろの大弟 子、ならびにもろもろの菩薩摩訶薩、文殊師利法王子・阿逸多菩薩(弥勒)・乾 陀訶提菩薩・常精進菩薩、かくのごとき等のもろもろの大菩薩、および[[釈提 桓因]]等の無量の諸天大衆とともなりき」と。

【44】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。諸仏の大悲心無二なり。方便の化門 等しくして殊なることなし。〔釈尊は〕かの荘厳無勝の土を捨てて、八相示現 して閻浮に出でたまふ。あるいは真形を現じてを利し、あるいは雑類に同じ て凡愚を化す。身を六道に分ちて停息することなし。変現よろしきに随ひて[[有 流]]を度す。有流の見解心一にあらず。ゆゑに八万四千の門あり。門々不同にし てまた別にあらず。別々の門還りてこれ同なり。同なるゆゑはすなはちこれ如 来のなり。別なるゆゑはまたこれ慈悲の心なり。悲心をもつて念々に三界を 縁ずるに、人天・四趣罪根深し。過・現の諸仏みな来りて化すれども、無明・ 業障をもつてあひ逢はず。慚愧す、釈迦の弘誓重くして娑婆十悪の叢を捨てた まはざることを。希に道場に遇ひて浄土を聞く。を騰げて永く逝きて煩籠を 出でん。衆等、傷心しともに悲嘆して、手に香華を執りてつねに供養したてま つれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【45】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。釈迦如来正覚を成じてより、[[四十九 載]]衆生を度したまふ。五天竺国(印度)にみな化を行ずるに、邪魔・外道こと ごとく帰宗す。天上天下に仏に過ぎたるはなし。慈悲をもつて苦を救ひたまふ。 実に逢ひがたし。あるいは神光を放ちて六道に遍す。光触を蒙るものは慈心を 起す。あるいは住し、あるいは来るに、みなことごとく益す。三塗永く絶えて 追尋を断ず。あるいは大地・山・河・海を震ふ。萌冥の信いまだ深からざるを 覚せしめんがためなり。あるいはみづから法を説きて教へてあひ勧め、展転し てあひ将て法林に入らしむ。法林はすなはちこれ弥陀国なり。逍遥快楽してあ ひ侵さず。衆等、心を傾けてみな往かんと願じて、手に香華を執りてつねに供 養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【46】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。如来の教法は元無二なり。まさしく 衆生の機不同なるがために、一音をもつて演説したまふに、縁に随ひて悟る残結を留めずして生空を証す。あるいは神通を現じ、あるいは法を説く。ある いは外道を服して魔蹤を滅す。みづから一身を利してを免るといへども、悲 心のあまねく益すること絶えて功なし。[[灰身滅智の無余の証なれども、二万劫 尽きてまた心を生ず。生心覚動して身また現ずれば]]、諸仏先づ教へて[[大乗を発 さしむ]]。衆等、心を回して浄土に生ぜんとして、手に香華を執りてつねに供養 したてまつれ。

 下、高に接ぎて讃じていへ。

【47】 高、下に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。菩薩大衆無央数なり。文殊師利もつ とも尊たり。大慈悲を発して苦行を行じ、弘願に違せずして衆生を度す。ある いは上好荘厳の相を現じ、あるいは上好荘厳の身を現ず。含霊覩見してみな 喜びを生ず。ために妙法を説きて真門に入らしむ。十方仏国に身みな到り、仏 の神光を助けて法輪を転ず。衆等、心を回して浄土に生ぜんとして、手に香華 を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【48】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。仏と声聞・菩薩衆、同じく舎衛に遊 び祇園に住し、三塗を閉ぢ六道を絶たんと願じて、無生浄土の門を開顕した まふ。人天大衆みな来集して、尊顔を瞻仰して未聞を聴く。仏を見たてまつり 経を聞きて同じく悟を得、畢命に心を傾けて宝蓮に入る。誓ひて弥陀の安養界 に到り、穢国に還来して人天を度せん。願はくはわが慈悲際限なくして、長時 長劫に慈恩を報ぜん。衆等、心を回して浄土に生ぜんとして、手に香華を執り てつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【49】 高座入文。

 「その時に仏、長老舎利弗に告げたまはく、これより西方に十万億の仏土を 過ぎて世界あり、名づけて極楽といふ。その土に仏まします、阿弥陀と号す。 いま現にましまして法を説きたまふ。舎利弗、かの土をなんがゆゑぞ名づけて 極楽となす。その国の衆生、もろもろの苦あることなく、ただもろもろの楽を 受く。ゆゑに極楽と名づく」と。

【50】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。人天大衆みな囲繞して、心を傾けて 合掌して経を聞かんと願ず。仏(釈尊)、凡聖の機と時と悟とを知りたまひて、 すなはち舎利に告げて用心して聴かしめたまふ。一切の仏土みな厳浄なれども、 凡夫の乱想おそらくは生じがたければ、如来(釈尊)別して西方の国を指した まふ。「これより十万億を超過せり。七宝の荘厳もつとも勝たり。聖衆人天の 寿命長し。仏を弥陀と号す。つねに法を説きたまふ。極楽の衆生障おのづか ら亡ず」と。衆等、心を回してかしこに生ぜんと願じて、手に香華を執りてつ ねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【51】 高座入文。

 「また舎利弗、極楽国土には七重の欄楯・七重の羅網・七重の行樹あり。み なこれ四宝をもつて周匝し囲繞せり。このゆゑにかの国を名づけて極楽とい ふ」と。

【52】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。三界の衆生は智慧なし。惛々として 六道のうちに身を安く。諸仏慈心をもつてために法を説きたまへども、聾盲[[觝 突]]の伴は聞かず。たちまちに無常の苦来り逼むれば、精神錯乱してはじめて[[驚 忙]]す。万事の家生みな捨離し、専心に発願して西方に向かへ。弥陀の名号相続 して念ずれば、化仏・菩薩眼前に行なりたまふ。あるいは華台を与へ、あるい は手を授け、須臾に命尽きぬれば、仏迎へ将たまふ。衆等、心を回してみな往 かんと願じて、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【53】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。歴劫よりこのかたいまだ聞見せず。 西方浄土の宝荘厳、地上・虚空にみな遍満して、珠羅宝網百千重なり。一々 の網羅珍宝を結び、玲瓏たる雑色ことごとく光を暉かす。宝樹の枝条異相間は り、行々整直にして巧みにあひ当れり。これはこれ弥陀の悲願力なり。無衰無 変にして湛然として常なり。衆等、心を回してみな往かんと願じて、手に香華 を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【54】 高座入文。

 「また舎利弗、極楽国土には七宝の池あり。八功徳水そのなかに充満せり。 池の底にはもつぱら金沙をもつて地に布けり。四辺の階道は金・銀・瑠璃玻瓈をもつて合成せり。上に楼閣あり。また[[金・銀・瑠璃・玻瓈・硨磲・赤珠・碼碯をもつて、これを厳飾す。池のなかの蓮華、大きさ車輪のごとし。青色に は青光、黄色には黄光、赤色には赤光、白色には白光あり。微妙香潔なり。舎 利弗、極楽国土にはかくのごとき功徳荘厳を成就せり」と。

【55】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。極楽世界は広くして清浄なり。地 上の荘厳量るべきこと難し。八功の香池流れて遍満す。底に布ける金沙、照ら すに異光あり。四辺の階道一色にあらず。岸上の重楼百万行なり。真珠・碼 碯あひ映飾し、四種の蓮華開けてすなはち香ばし。十方の人天生ずることを得 るものは、おのおの一箇に坐して真常を聴く。このゆゑにかの国を極楽と名づ く。衆等、華を持して来りて供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【56】 高座入文。

 「また舎利弗、かの仏国土にはつねに天の楽をなす。黄金をもつて地となし、 昼夜六時に天の曼陀羅華を雨らす。その国の衆生、つねに清旦をもつて、おの おの衣裓をもつてもろもろの妙華を盛れて、他方十万億の仏を供養したてまつ る。すなはち食時をもつて本国に還り到りて、飯食し経行す。舎利弗、極楽 国土にはかくのごとき功徳荘厳を成就せり」と。

【57】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。弥陀仏国はもつとも勝たり。広大[[寛 平]]にして実にこれなり。天楽音声つねに遍満す。黄金をもつて地となして奇 珍を間へたり。昼夜六時に華おのづから散ず。法音つねに説きて自然に聞く。 かの国の衆生はさらに事なし。衣裓に華を盛れて十方に詣す。一々に親承して 供養を修するに、塵労垢習永く消亡す。種々に心に随ひみな意に称ひて、利益 せざるはなし。これ真常なり。たちまちに飛騰して本国に還り、飯食して七宝 の台に経行す。衆等、心を傾けてみな往かんと願じて、手に香華を執りてつ ねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【58】 高座入文。

 「また次に舎利弗、かの国にはつねに種々奇妙なる雑色の鳥あり。白鵠・孔 雀・鸚鵡・舎利迦陵頻伽共命の鳥なり。このもろもろの衆鳥、昼夜六時に 和雅の音を出す。その音五根・五力・七菩提分・八聖道分、かくのごとき等の 法を演暢す。その土の衆生この音を聞きをはりて、みなことごとく仏を念じ法 を念じ僧を念ず。舎利弗、なんぢこの鳥は実にこれ罪報の所生なりと謂ふこと なかれ。所以はいかん。かの仏国土には三悪趣なければなり。舎利弗、その仏 国土にはなほ三悪道の名すらなし、いかにいはんやあらんや。このもろもろ の衆鳥は、みなこれ阿弥陀仏、法音を宣流せしめんと欲して、変化してなした まふところなり。舎利弗、かの仏国土には微風吹きて、もろもろの宝行樹およ び宝羅網を動かすに、微妙の音を出す。たとへば百千種の楽を同時にともにな すがごとし。この音を聞くもの、みな自然に仏を念じ法を念じ僧を念ずる心を 生ず。舎利弗、その仏国土にはかくのごとき功徳荘厳を成就せり」と。

【59】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。道場清浄にして希にして見がたし。 弥陀の浄土はなはだ聞きがたし。聞きがたく見がたくしていま会ふことを得た り。如説に修行して意をもつぱらにしてもつぱらにせん。願はくは仏の慈悲は るかに摂受して、臨終に宝座その前に現じたまへ。すでに華台を見て心踊躍し、 仏に従ひて逍遥して自然に帰す。自然はすなはちこれ弥陀国なり。無漏無生に してまたすなはち真なり。行来進止、つねに仏に随ひて無為法性の身を証得す。 衆等、心を回してみな往かんと願じて、手に香華を執りてつねに供養したてま つれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【60】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。極楽の荘厳は雑宝を間へたり。実に これ希奇にして未聞を聞く。宝鳥、空に臨みて仏会を讃ず。文々句々、理あひ 同じ。昼夜に声を連ねて息むことあることなし。哀婉雅亮にして人心を発す。 あるいは五根・七覚分を説き、あるいは八聖慈悲門を説き、あるいは他方の悪 道を離るることを説き、あるいは地獄の人天を封ずることを説き、あるいは長 時に苦行を修することを説き、あるいは無上菩提の因を説き、あるいは散善の 波羅蜜を説き、あるいは定慧をもつて深禅に入ることを説く。菩薩・声聞この 法を聞きて、処々に分身して法輪を転ず。衆等、心を回してみな往かんと願じ て、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【61】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。極楽の荘厳は三界を出で、人・天・ 雑類等しくして無為なり。法蔵因の広弘願を行じ、もしわれ仏を得ば希奇を 現ぜんと。あるいは鳥身を現じてよく法を説き、あるいは無請に現じてよく機 に応じ、あるいは微波をして妙響を出さしめ、あるいは林樹をして慈悲を讃ぜ しめ、あるいは風光をしてあひ応じて動ぜしめ、あるいは羅網をして音辞を説 かしめん。一切の荘厳の声遍満し、恒沙の天楽おのづから時による。[[他方の凡 聖]]の類を引かんがために、ことさらに仏この不思議を現じたまふ。われらこれ を聞きて身の毛竪つ。骨を砕きて阿弥師慚謝す。一たび受けて専精にして命 を惜しまざれば、須臾にすなはち〔浄土に〕到る。あに遅しとせんや。衆等、 心を回してみな往かんと願じて、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 下、高に接ぎて讃じていへ。

【62】 高、下に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。弥陀の仏国はまことに厳浄なり。[[三 悪]]・六道永く名すらなし。事々の荘厳識るべきこと難し。種々妙微にしてはな はだ精たり。地はるかに寛平にして衆宝間はり、一々に同じく耀きて五百の光 あり。一々の光宝台座となる。一々の座上に百千の堂あり。千堂の化仏、[[塵沙 の会]]あり。衆生入るものともにあひ量る。無数の音声空に遊びて転じ、[[化天童 子]]華香を散ず。昼夜六時に間息することなし。地上・虚空量るべきこと難し。 八徳の香池に意に随ひて入る。灌注すること人によりて浅深なし。あるいは出 で、あるいは没す。三禅の楽なり。徐々としてあひ喚ばひて檀林に入る。檀林 には宝座行々として別れたり。聖衆はなほ日月に超ゆるがごとし。日月はすな はちこれ長時劫なり。あるいは坐し、あるいは立し、あるいは遊方するに、到 る処にはただ無上の法のみを聞きて、永く凡夫生死の殃を絶つ。このゆゑにか の国を安楽と名づく。衆等、心を回して往生を願ぜよ。かの国に往生しぬれば 余の事なし。手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【63】 高座入文。

 「舎利弗、なんぢが意においていかん、かの仏をなんがゆゑぞ阿弥陀と号す る。舎利弗、かの仏の光明無量にして十方の国を照らすに、障礙するところな し。このゆゑに号して阿弥陀となす。また舎利弗、かの仏の寿命およびその人 民〔の寿命〕も無量無辺阿僧祇劫なり。ゆゑに阿弥陀と名づく。舎利弗、阿弥 陀仏は、成仏よりこのかたいまに十劫なり。また舎利弗、かの仏に無量無辺の 声聞の弟子あり、みな阿羅漢なり。これ算数のよく知るところにあらず。もろ もろの菩薩衆もまたかくのごとし。舎利弗、かの仏の国土には、かくのごとき 功徳荘厳を成就せり」と。

【64】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。〔阿弥陀仏は〕果、涅槃を得てつねに 世に住す。寿命延長にして量るべきこと難し。千劫・万劫・恒沙劫・[[兆載永 劫]]にしてまた無央なり。一たび坐して移ることなくまた不動なり。[[後際を徹窮 して]]身光を放つ。霊儀の相好真金色なり。巍々として独り坐して衆生を度す。 十方の凡聖専心に向かへば、〔阿弥陀仏は〕身を分ち化を遣はして往きてあひ迎 へしめたまふ。一念に空に乗じて仏会に入れば、身色・寿命ことごとくみな平 し。衆等、心を回してみな往かんと願じて、手に香華を執りてつねに供養した てまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【65】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。かの仏は因より苦行を行じ、[[勇猛専 精]]にして退する時なし。一たび坐して百劫・長時劫、なしがたきをよくなして 疲れを生ぜず。自利利他同じく悪を断ず。怨憎を捨てざるは大悲による。[[有識 含霊]]みなあまねく化す。同因同行菩提に至る。誓願して清浄の土を荘厳す。 見聞歓喜して無為を証す。衆等、心を回してみな往かんと願じて、手に香華を 執りてつねに供養したてまつれ。

【66】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。弥陀の化主に当りて坐す。華台独 りはるかにもつともたり。百億の摩尼、雑宝を間へたり。葉々の荘厳相おの づからなる。正坐よりこのかた十劫を経たり。心は法界を縁じて慈光を照らす。 光触を蒙るものは塵労滅し、臨終に仏を見たてまつりて西方に往く。かしこに 到りて華開けて大会に入る。無明煩悩自然に亡じ、三明自然なるは仏願に乗ず ればなり。須臾に合掌して神通を得。かの仏の声聞・菩薩衆は、塵沙のごとく して算数また窮めがたし。願はくはわれ今生につとめて意を発して、畢命にか の聖人の叢に往かん。衆等、心を傾け往生を願じて、手に香華を執りてつねに 供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【67】 高座入文。

 「また舎利弗、極楽国土には衆生生ずるもの、みなこれ阿鞞跋致なり。そ のなかに多く一生補処〔の菩薩〕あり。その数はなはだ多し。これ算数のよく これを知るところにあらず。ただ無量無辺阿僧祇劫をもつて説くべし。舎利弗、 衆生聞くものは、まさに発願してかの国に生ぜんと願ずべし。所以はいかん。 かくのごときもろもろの上善人と倶に一処に会することを得ればなり。舎利弗、 少善根福徳の因縁をもつてかの国に生ずることを得べからず」と。

【68】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。釈迦如来、身子(舎利弗)に告げた まふは、すなはちこれあまねく苦の衆生に告げたまふなり。娑婆六道は安き処 にあらず。冥々たる長夜の闇のなかに行く。聖化同居すれどもあひ識らず。 ややもすれば瞋毒を生じて無明を闘はしむ。この無明のために六道に繋がれ、 愛憎高下していづれの時にか平らかならん。すでに善業の生死を排ふなし。貪 によりて罪を造りていまだ心驚かず。この人皮に裹める驢骨に狂かされて、三 塗にみづから入ること争ふべからず。われらこれを聞きて心髄痛む。誓願して たちまちに世間の栄を捨てん。あまねく願はくは心を回して浄土に生ぜんとし て、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【69】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。娑婆はきはめて苦にして生処にあら ず。極楽は無為にして実にこれなり。九品ともに回して不退を得よ。阿鞞跋 致はすなはち無生なり。ただ初生限極なきのみにあらず。十地以下も[[劫にも 窮めがたし]]。かくのごときもの大海塵恒沙なり。有縁到ればそのなかに入る。 四種の威儀につねに仏を見たてまつり、行来進止、神通に駕す。六識縦横にし て自然に悟り、いまだ思量一念の功によらず。あまねく同生の善知識に勧む。 専心専注して西方に往け。衆等、心を回してみな往かんと願じて、手に香華を 執りてつねに供養したてまつれ。

 下、高に接ぎて讃じていへ。

【70】 高座入文。

 「舎利弗、もし善男子・善女人ありて、阿弥陀仏を説くを聞きて、名号を[[執 持]]すること、もしは一日、もしは二日、もしは三日、もしは四日、もしは五日、 もしは六日、もしは七日、一心にして乱れざれば、その人、命終の時に臨み て、阿弥陀仏、もろもろの聖衆と現じてその前にまします。この人終る時、心 顛倒せずして、すなはち阿弥陀仏の極楽国土に往生することを得。舎利弗、わ れこの利を見るがゆゑに、この言を説く。もし衆生ありてこの説を聞かんもの は、まさに発願してかの国土に生ずべし」と。

【71】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。極楽は無為涅槃の界なり。[[随縁の雑 善]]おそらくは生じがたし。ゆゑに如来(釈尊)要法を選びて、教へて弥陀を念 ぜしむることもつぱらにしてまたもつぱらならしむ。七日七夜、心無間に、長 時の起行もますますみなしかなり。臨終に聖衆、華を持して現ず。身心踊躍し て金蓮に坐す。坐する時すなはち無生忍を得。一念に迎へ将て仏前に至る。[[法 侶]]衣をもつて競ひ来りて着しむ。不退を証得して三賢に入る。衆等、心を回し てみな往かんと願じて、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【72】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。弥陀の侍者二菩薩を号して無辺(大 勢至)・観世音といふ。一切の時中に仏化を助けて、六道に分身して慈心を起し、 念々に機に随ひて、ために法を説きたまふ。惛々として悟りがたきは罪根の深 ければなり。百計千万数世に出でたまふも、万がなかに一も煩籠を出づるもの なし。なんぢ衆生の長劫の苦を念ふに、諸仏対面すれどもあひ逢はず。人天の 少善なほ弁じがたし、いかにいはんや無為にして六通を証せんをや。希有の法 を見聞することを得たりといへども、粗心、懈怠にしてますます功なし。たと ひ連年にほしいままに脚走して趁め得んとするも、貪瞋内胸に満てり。貪瞋は すなはちこれ身の三業なり。なんぞ浄土のうちの真空を開かん。語を[[同生の善 知識]]に寄す。仏の慈悲を念じて聖の叢に入れ。衆等、心を傾けてみな往かんと 願じて、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【73】 高座入文。

 「舎利弗、われいま阿弥陀仏の不可思議の功徳を讃歎するがごとく、東方に また阿閦鞞仏・須弥相仏・大須弥仏・須弥光仏・妙音仏、かくのごとき等の恒 河沙数の諸仏ましまして、おのおのその国において広長の舌相を出して、あま ねく三千大千世界に覆ひて、誠実の言を説きたまはく、〈なんぢら衆生、まさ にこの称讃不可思議功徳一切諸仏所護念経を信ずべし〉」と。

【74】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。釈迦如来つねに東方恒沙の等覚尊を 讃嘆したまふ。大悲同じく化して心無二なり。一仏功を施せば、多もまたしか なり。凡夫疑見の執を断ぜんがために、みな舌相を舒べて三千に覆ひて、とも に七日名号を称することを証し、また釈迦の言説の真なることを表す。[[終時正 意]]にして弥陀を念ずれば、仏の慈光来りて身を照らすを見る。この弥陀の本願 力に乗じて、一念のあひだに宝堂に入る。宝堂の荘厳限極なし。化仏・聖衆、 坐して思量す。心性は百千の日よりもあきらかなり。[[悲智双行法爾として常な り]]。われいますでに無為の処に到る。あまねく含霊のこの方に帰することを願 ず。衆等、心を傾けてみな往かんと願じて、手に香華を執りてつねに供養した てまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【75】 高座入文。

 「舎利弗、南方の世界に、日月灯仏・名聞光仏・大焔肩仏・須弥灯仏・無量 精進仏、かくのごとき等の恒河沙数の諸仏ましまして、おのおのその国におい て広長の舌相を出して、あまねく三千大千世界に覆ひて、誠実の言を説きたま はく、〈なんぢら衆生、まさにこの称讃不可思議功徳一切諸仏所護念経を信ず べし〉」と。

【76】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。南方の諸仏恒沙のごとし。また舌相 を舒べて三千に覆ひて、その本国の凡聖の衆のために、釈迦変現の身を讃嘆し たまふ。娑婆五濁のうちに出現したまふは、心を標して罪根の人を化せんがた めなり。我見邪貪増上慢、教へて世を出さしめんとしたまふに、かへりて 瞋りを生ず。「なんぢ衆生の流浪の久しきことを念ふに、諸仏の誠言真ならず と謂へばなり」と。衆等、心を回して浄土に生ぜんとして、手に香華を執りて つねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【77】 高座入文。

 「舎利弗、西方の世界に、無量寿仏・無量相仏・無量幢仏・大光仏・大明 仏・宝相仏・浄光仏、かくのごとき等の恒河沙数の諸仏ましまして、おのおの その国において広長の舌相を出して、あまねく三千大千世界に覆ひて、誠実の 言を説きたまはく、〈なんぢら衆生、まさにこの称讃不可思議功徳一切諸仏所 護念経を信ずべし〉」と。

【78】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。西方の諸仏恒沙のごとし。おのおの 本国において如来(釈尊)を讃ず。百億閻浮のうちに分身して、八相大希奇を 示現す。五濁の凡夫まさに実なりと謂へり。六年苦行して無為を証し、降魔成 道して妙法を説きたまふ。種々の方便不思議なり。あまねく衆生を勧めて浄土 に帰せしめたまふに、前みて思ひ却きて慮りてさらに疑を生ず。われいま[[舌を 舒べてもつて証をなす]]。「西方極楽かならずすべからくよるべし」と。衆等、 心を回してみな往かんと願じて、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【79】 高座入文。

 「舎利弗、北方の世界に、焔肩仏・最勝音仏・難俎仏・日生仏・網明仏、か くのごとき等の恒河沙数の諸仏ましまして、おのおのその国において広長の舌 相を出して、あまねく三千大千世界に覆ひて、誠実の言を説きたまはく、〈な んぢら衆生、まさにこの称讃不可思議功徳一切諸仏所護念経を信ずべし〉」と。

【80】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。北方の諸仏恒沙のごとし。みな舌相 を舒べて牟尼を証す。われ凡夫のために来りて世に出で、縁に随ひて法を説き 時機に応ず。時機あひ感ずれば聞きてすなはち悟る。説のごとく修行して疑を 致さざれ。七日名を称して間雑することなく、身心踊躍して喜びまた悲しむ。 慶ばしきかな、希に自家国を聞くことを得たり。諸仏還帰することを得と証判 したまふ。衆等、心を回してみな往かんと願じて、手に香華を執りてつねに供 養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【81】 高座入文。

 「舎利弗、下方の世界に、師子仏・名聞仏・名光仏・達摩仏・法幢仏・持法 仏、かくのごとき等の恒河沙数の諸仏ましまして、おのおのその国において[[広 長の舌相を出して]]、あまねく三千大千世界に覆ひて、誠実の言を説きたまはく、 〈なんぢら衆生、まさにこの称讃不可思議功徳一切諸仏所護念経を信ずべし〉」 と。

【82】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。下方の諸仏恒沙のごとし。おのおの 本国において衆生を度し、釈迦の五濁に出でてよく難事をなして群萌を化する ことを証讃したまふ。善巧よろしきに随ひて悪を断たしめ、偏心に指授して西 に向かひて行かしむ。一切の福業みな回向すれば、終時に化仏みづから来迎し たまふ。利根の智者は聞きて歓喜し、たちまちに三塗を憶して心すなはち驚く。 心を驚かせば、毛竪ちてつとめて懺悔す。おそらくは罪滅せずして深坑に堕す ることを。衆等、心を回して浄土に生ぜんとして、手に香華を執りてつねに供 養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【83】 高座入文。

 「舎利弗、上方の世界に、梵音仏・宿王仏・香上仏・香光仏・大焔肩仏・雑 色宝華厳身仏・娑羅樹王仏・宝華徳仏・見一切義仏・如須弥山仏、かくのごと き等の恒河沙数の諸仏ましまして、おのおのその国において広長の舌相を出し て、あまねく三千大千世界に覆ひて、誠実の言を説きたまはく、〈なんぢら衆 生、まさにこの称讃不可思議功徳一切諸仏所護念経を信ずべし〉」と。

【84】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。上方の諸仏恒沙のごとし。また舌相 を舒べたまふことは娑婆のためにす。十悪・五逆、多く疑謗し、を信じに 事へ神魔を餧ふ。妄想をもつてを求め、福あらんと謂へり。災障禍横うたた いよいよ多し。連年、病みて床枕に臥す。聾盲、脚折れ、手攣撅す神明に[[承 事]]してこの報を得。いかんぞ捨てて弥陀を念ぜざる。弥陀の願力はみな平等な り。ただ心を回して華みづから捧げ、一念に快楽の国逍遥すれば、[[畢竟常 安]]にして退動することなし。衆等、心を回してかしこに生ぜんと願じて、手に 香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【85】 高座入文。

 「舎利弗、なんぢが意においていかん。なんがゆゑぞ名づけて一切諸仏所護 念経となす。舎利弗、もし善男子・善女人ありて、この諸仏の所説の名および 経の名を聞くもの、このもろもろの善男子・善女人、みな一切諸仏のためにと もに護念せられて、みな阿耨多羅三藐三菩提を退転せざることを得ん。このゆ ゑに舎利弗、なんぢらみなまさにわが語および諸仏の所説を信受すべし。舎利 弗、もし人ありて、すでに発願し、いま発願し、まさに発願して、阿弥陀仏国 に生ぜんと欲するものは、このもろもろの人等みな阿耨多羅三藐三菩提を退転 せざることを得て、かの国土において、もしはすでに生じ、もしはいま生じ、 もしはまさに生ずべし。このゆゑに舎利弗、もろもろの善男子・善女人、もし 信あるものは、まさに発願してかの国土に生ずべし」と。

【86】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。釈迦如来の大慈悲、娑婆に応現して 有縁を度したまふ。有縁三千界遍満せり。機に随ひて示悟して貪痴を断ぜし め、総じて勧めてこの人天の楽を厭はしめたまふ。無常・八苦の火、人を焼け ども、念仏・誦経すれば罪障を除き、諸仏はるかに加して身を護念したまふ。 昼夜六時につとめて発願して、心を持ちて散ぜざればまた成ず。業成ずれば、 仏華台主を見たてまつる。須臾に変じて紫金台となり、仏に従ひて逍遥して宝 国に入り、畢竟じて永く愁憂の声を絶つ。衆等、心を回してみな往かんと願じ て、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【87】 高座入文。

 「舎利弗、われいま諸仏の不可思議の功徳を称讃するがごとく、かの諸仏等 もまた、わが不可思議の功徳を称説して、この言をなしたまはく、〈釈迦牟尼 仏、よく甚難希有の事をなし、よく娑婆国土の五濁悪世の劫濁・見濁・煩悩 濁・衆生濁・命濁のなかにおいて、阿耨多羅三藐三菩提を得て、もろもろの 衆生のために、この一切世間難信の法を説きたまふ〉と。舎利弗、まさに知る べし、われ五濁悪世において、この難事を行じて阿耨多羅三藐三菩提を得て、 一切世間のためにこの難信の法を説く。これを甚難となす。仏(釈尊)この経 を説きをはりたまふに、舎利弗およびもろもろの比丘、一切世間の天・人・阿 修羅等、仏の所説を聞きて、歓喜し信受して、礼をなして去りぬ」と。

【88】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。世尊慇懃に身子(舎利弗)に告げて、 諸仏の大悲の同じきことを表知せしめたまふ。たがひに徳を讃じて心異なるこ となく、巧みに時機に応じておのおの功あり。六方の如来みな讃嘆したまふ。 「釈迦の出現はなはだ逢ひがたし」と。まさしく五濁の時の興盛なるを治す。 無明頑硬にして高峰に似たり。劫濁の時移りて身やうやく小なり。衆生濁悪 にして蛇竜に等し。悩濁遍満して塵数に過ぎ、愛憎違順して岳山のごとし。見 濁の叢林棘刺のごとし。命濁中夭刹那のあひだなり。依正二報同時に滅し、 正に背き邪に帰して横に怨を起す。九十五種みな世を汚す。ただ仏の一道のみ 独り清閑なり。出でて菩提に到らば心尽くることなく、火宅に還来して人天を 度す。衆等、心を回してみな往かんと願じて、手に香華を執りてつねに供養し たてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【89】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。如来(釈尊)五濁に出現して、よろ しきに随ひて方便して群萌を化したまふ。あるいは多聞にして得度すと説き、 あるいは少解をもつて三明を証すと説く。あるいは福慧ならべて障を除くと教 へ、あるいは禅念して坐して思量せよと教ふ。種々の法門みな解脱すれども、 念仏して西方に往くに過ぎたるはなし。上一形を尽し十念に至り、三念・五念 まで仏来迎したまふ。ただに弥陀の弘誓重きがために、凡夫をして念ずればす なはち生ぜしむることを致す。衆等、心を回してみな往かんと願じて、手に香 華を執りてつねに供養したてまつれ。

 下、高に接ぎて讃じていへ。

【90】 高、下に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。世尊法を説きたまふこと、時まさに 了りなんとして、慇懃に弥陀の名を付属したまふ。五濁増の時は多く疑謗し、 道俗あひ嫌ひて聞くことを用ゐず。修行することあるを見ては瞋毒を起し、[[方 便破壊]]して競ひて怨を生ず。かくのごとき生盲闡提の輩は、頓教を毀滅して永 く沈淪す。大地微塵劫を超過すとも、いまだ三塗の身を離るることを得べから ず。大衆同心にみな、あらゆる破法罪の因縁を懺悔せよ。衆等、心を回して浄 土に生ぜんとして、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。下、高に接ぎて讃じていへ。

【91】 高座、下座の声の尽くるを待ちて、すなはち大衆のために総じて懺悔し ていへ。

 弟子道場の衆等、そこばくの人、おのおのに心を標して愧謝す。諸仏、冥空 に幽顕したまへる得道の聖人、三十三天等の一切の天神・地神、虚空・山林・ 河海神等、天曹地府閻羅伺命五道太山三十六王・地獄典領・一切 の霊祇等、およびこの道場の尊経・舎利・形像・霊儀等、ただ願はくは大悲光 威神をもつて、今日道場の主某甲およびそこばくの人、心を披き懺悔するを[[加 備]]し護念し摂受し証明したまへ。弟子某甲等、無身有身・無識有識よりこの かた、すなはち今日に至り今時に至るまで、その中間において、所作の[[身口意 業]]の十悪の罪無量無辺なり。あるいは身業をほしいままにして、一切の地獄・ 畜生の衆生、水・陸・虚空の蠕動の類を殺害し劫奪せること数を知るべからず。 あるいは一切の修羅・鬼神の衆生、水・陸・虚空の蠕動の類を殺害し劫奪せる こと数を知るべからず。あるいは一切の人天・三宝・師僧・父母・六親眷属・ 善知識・法界の衆生を殺害し劫奪せること数を知るべからず。あるいは故殺・ 誤殺・戯笑殺・自殺・教他殺・随喜殺・相続殺・無間殺・愛憎違順殺・放逸 殺・貪味為財殺、かくのごとき等の殺の罪無量無辺なり。いま道場の凡聖に対 して発露懺悔す。永く尽して余なからん。懺悔しをはりて、心を至して阿弥陀 仏に帰命したてまつる。

 下、高に接ぎて和していへ。

 懺悔しをはりて、心を至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

【92】 高、下に接ぎて懺していへ。

 弟子衆等、次にまさに偸盗の罪を懺悔すべし。あるいは身業をほしいままに して、一切の地獄・畜生の衆生、水・陸・虚空の蠕動の類を偸盗し劫奪せるこ と数を知るべからず。あるいは一切の修羅・鬼神の衆生、水・陸・虚空の蠕動 の類を偸盗し劫奪せること数を知るべからず。あるいは一切の人天・三宝・師 僧・父母・六親眷属・善知識・法界の衆生を偸盗し劫奪せること数を知るべか らず。あるいは故盗・誤盗・戯笑盗・自盗・教他盗・随喜盗・放逸盗・[[無間 盗]]・愛憎盗・違順盗・貪味為財盗、かくのごとき等の偸盗の罪無量無辺なり。 いま道場の凡聖に対して発露懺悔す。永く尽して余なからん。懺悔しをはりて、 心を至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

 下、高に接ぎて和していへ。

 懺悔しをはりて、心を至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

【93】 高、下に接ぎて懺していへ。

 弟子衆等、次にまさに邪婬顛倒の罪を懺悔すべし。あるいは身業をほしいま まにして邪婬を起し、あるいは一切の畜生の衆生、水・陸・虚空の蠕動の類を 逼掠せること数を知るべからず。あるいは婬を起して一切の鬼神の衆生、水・ 陸・虚空の蠕動の類を逼掠せること数を知るべからず。あるいは婬心を起して 一切の師僧・父母・六親眷属・善知識・法界の衆生を逼掠せること数を知るべ からず。あるいは放逸作・故作・誤作・戯笑作・自作・教他作・随喜作・[[無慚 愧作]]・相続作・無間作・邪貪悪貪作、かくのごとき等の邪婬の罪無量無辺なり。 いま道場の凡聖に対して発露懺悔す。永く尽して余なからん。懺悔しをはりて、 心を至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

 下、高に接ぎて和していへ。

 懺悔しをはりて、心を至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

【94】 高、下に接ぎて懺していへ。

 弟子衆等、次にまさに口業虚誑の罪を懺悔すべし。あるいは口業をほしいま まにして、一切の地獄・畜生の衆生、水・陸・虚空の蠕動の類を欺誑せること 数を知るべからず。あるいは一切の修羅・鬼神の衆生、水・陸・虚空の蠕動の 類を欺誑せること数を知るべからず。あるいは一切の人天・三宝・師僧・父 母・六親眷属・善知識・法界の衆生を欺誑せること数を知るべからず。あるい は常作・無間作・故作・誤作・戯笑作・自作・教他作・随喜作・邪貪悪貪作、 かくのごとき等の欺誑の罪無量無辺なり。いま道場の凡聖に対して発露懺悔す。 永く尽して余なからん。懺悔しをはりて、心を至して阿弥陀仏に帰命したてま つる。

 下、高に接ぎて和していへ。

 懺悔しをはりて、心を至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

【95】 高、下に接ぎて懺していへ。

 弟子衆等、次にまさに調戯の罪を懺悔すべし。あるいは口業をほしいままに して、一切の地獄・畜生の衆生、水・陸・虚空の蠕動の類を調戯軽弄せること 数を知るべからず。あるいは一切の修羅・鬼神の衆生、水・陸・虚空の蠕動の 類を調弄せること数を知るべからず。あるいは一切の人天・三宝・師僧・父 母・六親眷属・善知識・法界の衆生を調弄せること数を知るべからず。あるい は常作・無間作・故作・誤作・戯笑作・自作・教他作・随喜作、かくのごとき 等の調弄の罪無量無辺なり。いま道場の凡聖に対して発露懺悔す。永く尽して 余なからん。懺悔しをはりて、心を至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

 下、高に接ぎて和していへ。

 懺悔しをはりて、心を至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

【96】 高、下に接ぎて懺していへ。

 弟子衆等、次にまさに悪口の罪を懺悔すべし。あるいは口業をほしいままに して、一切の地獄・畜生の衆生、水・陸・虚空の蠕動の類を罵辱し誹謗し毀呰 せること数を知るべからず。あるいは一切の修羅・鬼神の衆生、水・陸・虚空 の蠕動の類を罵辱し誹謗し毀呰せること数を知るべからず。あるいは一切の人 天・三宝・師僧・父母・六親眷属・善知識・法界の衆生を罵辱し誹謗し毀呰せ ること数を知るべからず。あるいは常作・無間作・故作・誤作・戯笑作・自 作・教他作・随喜作・邪貪悪貪作、かくのごとき等の悪口の罪無量無辺なり。 いま道場の凡聖に対して発露懺悔す。永く尽して余なからん。懺悔しをはりて、 心を至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

 下、高に接ぎて和していへ。

 懺悔しをはりて、心を至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

【97】 高、下に接ぎて懺していへ。

 弟子衆等、次にまさに両舌の罪を懺悔すべし。あるいは口業をほしいままに して、両舌をもつて一切の畜生の衆生、水・陸・虚空の蠕動の類を闘乱破壊せ ること数を知るべからず。あるいは一切の修羅・鬼神の衆生、水・陸・虚空の 蠕動の類を闘乱破壊せること数を知るべからず。あるいは一切の人天・三宝・ 師僧・父母・六親眷属・善知識・法界の衆生を闘乱破壊せること数を知るべか らず。あるいは常作・無間作・故作・誤作・戯笑作・自作・教他作・随喜作・ 邪貪悪貪作、かくのごとき等の両舌の罪無量無辺なり。いま道場の凡聖に対し て発露懺悔す。永く尽して余なからん。懺悔しをはりて、心を至して阿弥陀仏 に帰命したてまつる。

 下、高に接ぎて和していへ。

 懺悔しをはりて、心を至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

【98】 高、下に接ぎて懺していへ。

 弟子衆等、次にまさに意業の罪を懺悔すべし。あるいは邪貪・悪貪を起し身 口意業を動ぜること数を知るべからず。あるいは邪瞋を起し身口意業を動ぜる こと数を知るべからず。あるいは邪痴顛倒・悪見顛倒を起し身口意業を動ぜる こと数を知るべからず。あるいは意業によりて身業の十悪の罪を造作して、凡 聖、六道の衆生、親疎人畜等の衆生を簡ばざること数を知るべからず。あるい は故作・誤作・常作・無間作・自作・教他作・随喜作、かくのごとき等の意業 の罪無量無辺なり。いま道場の凡聖に対して発露懺悔す。永く尽して余なから ん。総じて十悪の罪を懺しをはりて、心を至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

 下、高に接ぎて和していへ。

 懺悔しをはりて、心を至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

 この十悪はすなはち一切の悪を摂し尽す。いま十悪の罪を懺悔すれば、すな はち一切の罪を懺し尽すなり、知るべし。

【99】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。三界は安きことなし。火宅のごとし。 六道周慞たり。競ひて門を出でよ。門々不同にして八万四なり。おのおのみ な心眼の前に当れり。棄々して出でんと欲すれどもまた回り去く。この無明の ために誤りて人を殺し、財を貪り色を愛でて厭足することなし。虚華幻惑詐り てあひ親しむ。財尽き色落ちぬればあひ嫌ひて恨む。須臾に義断えて屠怨のご とし。屠怨、娑婆のうちに遍満す。有識含情みなまたしかなり。これがために 如来(釈尊)ひとへに指授して、勧めてもつぱら浄土の因を修せしむ。浄土の 因、成じぬれば自然に到る。終る時に合掌して香煙をたてまつる。香煙ただち に弥陀仏に注ぐ。聖衆華を持してわが身を迎ふ。すなはち華台に坐するに紫金 色なり。かの無漏に到りぬれば、真にしてまた真なり。衆等、悲流してみな往 かんと願じて、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

 高、下に接ぎて讃じていへ。

【100】 下、高に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。劫尽きんと欲する時五濁盛りなり。 衆生邪見にしてはなはだ信じがたし。もつぱらにしてもつぱらなれと指授して 西路に帰せしむれども、他のために破壊せられてまた故のごとし。曠劫よりこ のかたつねにかくのごとし。これ今生にはじめてみづから悟るにあらず。まさ しく好き強縁に遇はざるによりて、輪廻して得度しがたからしむることを致 す。今日今時要法を聞き、畢命を期となして、誓ひて堅固なれ。堅固に心を持ち て身を惜しまずして、釈迦・諸仏の恩を慚愧すべし。心を標してために西方の 楽を説きて、斉しく帰して正門に入らしめんと欲す。正門はすなはちこれ弥陀 界なり。究竟解脱して根源を断ず。去来、他郷には停まるべからず。仏の帰家 に従ひて本国に還りぬれば、一切の行願自然に成ず。衆等おのおの浄土に生ぜ んとして、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

【101】 高、下に接ぎて讃じていへ。

 願はくは往生せん、願はくは往生せん。大衆人々みな合掌して、身を砕きて 釈迦の恩を慚謝せよ。よく慈悲巧方便を得て西方快楽の門を指授したまふ。道 場散ぜんと欲して人まさに別れんとす。ゆめあひ勧めて貪瞋を断ぜよ。貪瞋の 因縁聖土を障ふ。みづから悟ることを得ずして永く沈淪す。同行あひ親しみ てあひ策励し、畢命を期となして仏前に到らん。願はくはこの[[法輪相続して転 じ]]、道場の施主ますます長年ならん。大衆ことごとく同じく安楽を受け、見聞 随喜もまたみなしかならん。あまねく願はくは心を回して浄土に生ぜんとして、 手に香華を執りてつねに供養したてまつらん。

 下、高に接ぎて讃じていへ。高、下に接ぎて讃じていへ。

【102】 また経を誦し讃を唱ふることをはりて、高座すなはち一人をして行香 せしめ、大衆と行華せよ。次にまさに讃人行道の処に向かひて立すべし。 また小者をして礼供養および如法行道を唱へしめよ。唱へをはりてその散華の 法、もつてもつぱら上のごとくせよ。あるいは三匝しあるいは七匝しをはりて、 すなはち仏前に当りて立ちて次に後讃を唱へよ。

【103】 高座唱讃し、下座和していへ。

般舟三昧楽[願往生]
大衆人々みな合掌せよ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
道場の聖衆帰還せんと欲す[無量楽]
衆等心を傷めともに傷歎して[願往生]
ただ釈迦の恩を慚謝することを知れ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
悲喜交流して深くみづから慶ぶ[無量楽]

釈迦仏の開悟によらずは[願往生]
弥陀の名願いづれの時にか聞かん[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
仏(釈尊)の慈恩を荷ひて実に報じがたし[無量楽]
四十八願慇懃に喚ばふ[願往生]
仏(阿弥陀仏)の願力に乗じて西方に往かん[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
娑婆永く別れなばさらになにをか憂へん[無量楽]
罪と福と時との多少を問ふことなく[願往生]
心々に念仏して疑を生ずることなかれ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
六方の如来不虚を証したまふ[無量楽]
三業専心にして雑乱なければ[願往生]
百宝の蓮華時に応じて見る[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]

臨終に聖衆みづから来迎したまふ[無量楽]
行者仏を見たてまつりて心歓喜す[願往生]
弥陀手を接りて華台に坐せしむ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
坐しをはれば身同じく紫金色なり[無量楽]
仏に従ひて須臾に宝国に至り[願往生]
ただちに弥陀大会のなかに入る[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
仏の荘厳の無数億なるを見る[無量楽]
三明六通みな具足して[願往生]
わが閻浮の同行人を憶ふ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
同行あひ親しみて願はくは退することなかれ[無量楽]
七周行道し散華しをはりて[願往生]
冥空の諸仏会を供養したてまつる[無量楽]

般舟三昧楽[願往生]
大会頂礼して弥陀に別れたてまつる[無量楽]

【104】:行道散華七周しをはりて、次に仏前に向かひて立ちて讃を唱へてい

へ。
弥陀ともろもろの聖衆とに慚愧す[願往生]
われと施主と衆生との請を受けたまへ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
慈悲平等にして衆生を度し[無量楽]
功徳を証明し罪障を除きたまへ[願往生]
存亡の利益思議しがたし[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
形枯命断に仏前を期す[無量楽]
供養荘厳如法ならざれども[願往生]
衆生に歓喜の心を布施したまへ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]

見聞するもの涙を流して同じく懺悔せよ[無量楽]
散華行道訖りぬ[願往生]
諸仏縁に随ひて本国に還りたまふ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
あまねく香華を散じて心に仏を送りたてまつる[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
願はくは仏の慈心はるかに護念したまへ[無量楽]
般舟三昧楽[願往生]
同生あひ勧むことごとくすべからく来るべし[無量楽]

【105】:次に磬子を打ちて、「敬礼常住三宝」を唱へよ。

次に歎仏の呪願を唱へよ。
歎仏しをはりて、すなはち法によりて七礼敬を唱へ、随意を唱へよ。

【106】 ひそかにおもんみれば、弥陀の妙果を号して無上涅槃といふ。国土は すなはち広大にして荘厳遍満す。自然の衆宝なり。観音大士左に侍して霊儀 し、勢至慈尊すなはち右辺に供養す。三華独りはるかにして宝縵躯に臨む。珠 は内に光を輝かし、天の声は外に繞れり。声聞・菩薩数塵沙に越え、化鳥・天 同じくに遍せざるはなし。他方の聖衆起りて雲の奔るがごとく、凡惑同じく 生ずること盛りなる雨に過踰せり。十方より来るものみな仏辺に到りて、鼓楽 いよいよ歌ひ、香華をもつて繞り讃ず。供養あまねく訖りて、処に随ひて遍歴 親承す。あるいは百宝の池渠の会に入り、あるいは宝楼・宮殿の会に入り、あ るいは宝林・宝樹の会に入り、あるいは虚空の会に上り、あるいは大衆[[無生法 食]]の会に入る。かくのごとき清浄荘厳大会の聖衆等、同じく行じ、同じく坐 し、同じく去り、同じく来る。一切の時中に証悟せざるはなし。西方極楽の種 種の荘厳歎ずとも、よく尽すことなし。

【107】 しかるにいま清信の弟子某甲等、そこばくの人、身はかりに四大を合 してともに成ぜりと知り、命は浮危なること、たとへば厳霜の日に対へるに似 たりと識る。十方の六道同じくこれ輪廻して無際なり。循々として愛波に沈 みて苦海に沈む。仏道人身得がたくしていますでに得たり。浄土聞きがたくし ていますでに聞けり。信心発しがたくして、いますでに発せり。仰ぎておもん みれば、今時の同生知識等、そこばくの人、おそらくは命は石火に同じ、久し く照らすこと期しがたし。識性は無常なり、逝くこと風燭に踰えたり。ゆゑに 人々同じく願じてともに往生の業を結ぶ。おのおの『弥陀経』を誦することそ こばく万遍、弥陀の名を念ずることそこばく万遍、また某の功徳等を造りてあ まねくみな周備す。ゆゑに某の月日に院宇を荘厳し、道場を瑩飾し、僧尼を[[奉 請]]して、宿宵行道す。また廚皇の百味・種々の甘香をもつて仏および僧徒 にたてまつりて、同心に慶喜す。また願はくは持戒・誦経・念仏・行道し、お よびもろもろの功徳等を造らん。当今の施主および同行の諸人、法界の衆生、 いまより以去、天神影衛して万善扶持し、福命休強にしてもろもろの憂悩を離 れ、六方の諸仏信心を護念し、浄土の弥陀慈心をもつて摂受したまへ。また願 はくは観音聖衆駱駅として往来して、念々に遺るることなくはるかに加しあ まねく備へて、春秋冬夏四大つねに安く、罪滅し福成じて、回して浄土に生 ぜん。また願はくは臨終に病なく正念堅強にして、聖衆来迎したまひ、華台あ まねく集まり、弥陀光照し、菩薩身を扶け、化仏心を斉しくして、同声に等し く讃じ、台に乗じて一念すなはち西方に至り、仏の尊顔を見たてまつりて無生 忍を悟らん。仰ぎ願はくは往生の同行人等、かくのごとき善を得ん。また願は くはこの功徳、

 大唐の皇帝資益したてまつり、福基永く固く、聖化窮まることなからん。 また願はくは、

 皇后慈心平等にして六宮を哀愍したまはん。また願はくは、

 皇太子、〔天子の〕恩を承くること地よりも厚く、山岳の移ることなきに同じ く、福命唐々として滄波に類して尽きたまふことなからん。また願はくは[[天 曹]]・地府閻羅伺命、罪障を滅除して善名を注記せん。また願はくは修羅戦 諍を息め、餓鬼飢虚を除き、地獄と畜生と倶時に解脱を得ん。竪には三界に通 じ横には九居を括りて、等しく娑婆を出でて同じく浄土に帰せざるはなからん。

【108】:下座七礼を唱へよ。

 本師釈迦牟尼仏等の一切の三宝に南無したてまつる。われいま稽首して礼し、 回して無量寿国に往生せんと願じたてまつる。

 十方三世の尽虚空遍法界微塵刹土のなかの一切の三宝に南無したてまつる。 われいま稽首して礼し、回して無量寿国に往生せんと願じたてまつる。

 西方極楽世界の阿弥陀仏に南無したてまつる。願はくはもろもろの衆生とと もに安楽国に往生せん。

 西方極楽世界の観世音菩薩摩訶薩に南無したてまつる。願はくはもろもろの 衆生とともに安楽国に往生せん。

 西方極楽世界の大勢至菩薩摩訶薩に南無したてまつる。願はくはもろもろの 衆生とともに安楽国に往生せん。

 西方極楽世界のもろもろの菩薩摩訶薩、清浄大海衆に南無したてまつる。 願はくはもろもろの衆生とともに安楽国に往生せん。

 あまねく四恩・三友・帝王・人王・師僧・父母・善知識・法界の衆生、三障 を断除して、同じく阿弥陀仏国に往生することを得んがために、一切の賢聖を 和上し、回して無量寿国に往生せんと願じたてまつる。

【109】:唱へをはりてすなはち随意をいへ。

 行者等にまうす。一切の時につねにこの法によりて、もつて恒の式となせ、 知るべし。経を送りていづれの処にか致す。送りて摩尼宝殿のなかに至らしめ ん。経を送りていづれの処にか致す。送りて竜宮大蔵のなかに至らしめん。経 を送りていづれの処にか致す。送りて西方石窟宝函のなかに至らしめん。








安楽行道転経願生浄土法事讃 巻下