無分別智
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むふんべつち
無分別智
知るものと知られるものが一つであるような智慧のこと。
ものごとを二元的、対立的に理解していこうとする分別智を超えて、生死一如、自他不二と直覚していく智慧。このように万物一如とさとるこの無分別智のことを根本智とも実智ともいい、またそれを般若(プラジュニャー)ともいう。このような無分別智の境地は、分別を本質とした言葉を超えているから不思議といわれる。
しかし無分別智によって生死、愛憎を超えたものは、そのさとりの境地を人々に伝え導くために言葉で表現し教法として示していく。これを後得智(ごとくち)とも権智(ごんち)ともいう。
なお根本智に至る前段階の加行無分別といい、加行・根本・後得の三智とすることもある。(梯實圓『歎異抄』より)
- →分別
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無分別智(むふんべっち)
大乗仏教の根本的立場を示す重要な語で、通常の主客対立にとらわれた見方(分別)を超えた智慧(ちえ)をいう。サンスクリット語ニルビカルパ・ジュニャーナnirvikalpaka-jñānaの訳。大乗仏教の根本経典である『般若経(はんにゃきょう)』は、菩薩(ぼさつ)の般若波羅蜜(はんにゃはらみつ)の実践として、言語習慣に拘泥した主客対立の分別を徹底的に否定したが、この否定に基づく智慧の立場を術語化した表現が無分別智である。したがって、無分別智そのものは言語表現を超えた境地であるが、唯識(ゆいしき)説ではこれを根本(こんぽん)無分別智とよび、この智を、その前段階である加行(けぎょう)無分別智や、当の根本無分別智の体験に基づいてふたたび言語表現の世界へ戻ってくる後得(ごとく)無分別智の二つと区別しながらも、これら三様のあり方をともに無分別智として認めている。無分別智に基づく仏教的考え方は、近代になって西田幾多郎(きたろう)の哲学などに大きな影響を与えたことが指摘されている。[袴谷憲昭]
- オンライン版 仏教辞典より転送
無分別智
nirvikalpa-jñāna
無分別心(むふんべつしん)とも言う。
正しく真如を体会する智慧をいう。
真如は一切の相を離れており、分別することのできないものであるから、これによって分別と言う精神作用では真如の体性を会得することができない。一切の情念の分別を離れた無相の真実の智慧によってのみ会得されるものである。
- もし、人間が体会した智が、その智を起したものと異ならなくて、平等が平等に生起したものであるならば、これを無分別智と名づける。 〔摂大乗論 12 T31-364b〕
- 無分別智は、一切の有為無為等の諸法の真如を縁じて通じて一境と為し、此の智と境と復た分別なし。〔梁訳摂大乗論釈11〕
- 無分別心は、体と相応するものである。 〔大乗起信論 T32-579a〕
jñāna(智)を prajñā (慧)で置き換えて無分別慧ともいう。分別しない智慧。なんらの認識対象もない心のありようをいう。
ある行為を成立せしめる「主体」と「客体」とその両者の間に展開する「行為」あるいは行為に関係する「物」との3つを分けない無分別智を三輪清浄の無分別智という。〈唯識〉ではこの無分別の智慧を火にたとえて無分別智火といい、この火によって深層の阿頼耶識のなかにある汚れた種子が焼かれて、深層から心が浄化されると説く。これには加行無分別智と根本無分別智と後得無分別智との3種がある。
- 加行無分別智は加行位において起こす無分別智で、いまだ煩悩を有した有漏の智慧をいう。
- 根本無分別智とは通達位において起こす無分別智で、まさに真理(四諦・真如)を初めて見る、煩悩がない無漏の智慧をいう。
- 後得無分別智とは根本無分別智の後に得る無分別智で、真理をさとった後に再び世間にもどり世事のけがれに染まることなく人びとの救済のために努力する菩薩の智慧をいう。この後得無分別智は、十地からなる修習位において起こし、十地それぞれの地においてそれぞれに属する煩悩を断じて心を深層からますます清らかにしていく無分別智である。
「已に無分別智を得た者には無分別智が現在前する時、一切の諸義が皆な顕現せず」
「虚妄分別の識が若し無分別智の火に焼かるる時、此の識の中にある真実なる円成実自性が顕現し、虚妄の遍計所執自性は顕現せず」
「若し時に、菩薩は所縁の境に於て無分別智が都て所得なくなりぬ。種種の戯論の相を取らざるが故に。爾る時、乃ち実に唯識の真の勝義性に住すと名づく」
「数、無分別智を修習するに由って本識中の二障の麁重を断ずるが故に、能く依他起上の遍計所執を転捨して及び能く依他起中の円成実性を転得す」
無分別智、名増上慧。此復三種。一加行無分別智、謂、尋思慧。二根本無分別智、謂、正証慧。三後得無分別智、謂、起用慧。〔『摂論釈・世』8,T31-363c〕
慧学有三種。加行無分別慧・根本無分別慧・後得無分別慧。〔『成論』9,T31-52a〕