後生の一大事
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「蓮如教学」の泰斗である稲城選恵和上からお聞きした後生についての法話で、
山口におきそという三十路(みそじ)を過ぎてなお嫁(とつ)がない浄土真宗の門徒がいた。
おきそ同行は心の変調からか少し頭が足りないと世間で言われている。
そんな、おきそ同行は、毎朝自宅の前を役場へ向かう人力車の村長に声をかけるのが日課だった。両腕を頭の後ろで組んで、
「村長さんは気の毒やなあ」
毎日の事であるから、村長さんも慣れていたのだが、ある日の事少し虫の居所が悪かったのだろう、
「コラッ、おきそ、世間ではお前の事を馬鹿の天保銭のおきそと言っているのを知っているのか、この八文め」
と、人力車を止めておきそ同行を詰問した。
おきそ曰く、
「村長さんは一円銀貨じゃから先が見えん、おきそは八文の穴開き銭(天保銭)じゃから先の後生が見える」
と、言ったそうな。
この法話の時代背景。天保銭は鋳造当時から一人前に百文で通用しないので、囃子言葉で馬鹿の八文天保銭と呼ばれた。
蓮如上人の御文章には、
- 「それ、八万の法蔵をしるといふとも、後世をしらざる人を愚者とす。たとひ一文不知の尼入道なりといふとも、後世をしるを智者とすといへり」(八万の法蔵章)
と仰せだが、生死を超えた浄土の世界を後世と定めたおきそ同行の言葉に、村長さんもビックリしただろうな。