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:或いは今夜に送らんと欲して、棺の前に別れを泣く人もあり。およそはかなきものは人の始中終、幻の如くなる一朝の過ぐる程なり。
 
:或いは今夜に送らんと欲して、棺の前に別れを泣く人もあり。およそはかなきものは人の始中終、幻の如くなる一朝の過ぐる程なり。
 
三界無常也。自古未聞有萬歳人身。一生易過。在今誰保百年形體。
 
三界無常也。自古未聞有萬歳人身。一生易過。在今誰保百年形體。
:三界無常なり。古よりいまだ萬歳の人身あることいふことを聞かず、 一生過ぎやすし。今に在て誰か百年の形體を保たん。
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:三界無常なり。<kana>古(いにしえ)</kana>よりいまだ萬歳の人身あることいふことを聞かず、 一生過ぎやすし。今に在て誰か百年の形體を保たん。
 
實我前人前。不知今日不知明日。後先人繁本滴末露。
 
實我前人前。不知今日不知明日。後先人繁本滴末露。
:實(まこと)に、我はさき人やさき、今日も知らず明日とも知らず。おくれ先だつ人、本の滴、末の露よりも繁し。
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:<kana>實(まこと)</kana>に、我はさき人やさき、今日も知らず明日とも知らず。おくれ先だつ人、本の滴、末の露よりも繁し。
 
指厚野爲獨逝地築墳墓、爲永栖家。燒爲灰埋爲土。人成之終之資也。
 
指厚野爲獨逝地築墳墓、爲永栖家。燒爲灰埋爲土。人成之終之資也。
:厚野を指して獨り逝地と築墳墓をなし永く栖家となす。燒けば灰となり埋めて土となる。人の成りゆく終りの資(すがた)なり。
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:厚野を指して獨り逝地に墳墓を築き、永く栖家となす。燒けば灰となり埋めて土となる。人の成りゆく終りの<kana>資(すがた)</kana>なり。
 
嗚呼。撫雲鬢戲花間朝。百媚雖難別、先露命、臥蓬下。夕九相皆可捨爛一兩日過者悉傍眼。
 
嗚呼。撫雲鬢戲花間朝。百媚雖難別、先露命、臥蓬下。夕九相皆可捨爛一兩日過者悉傍眼。
:ああ、雲鬢を撫でて花の間に戲ふるは、朝(あし)た百媚と別れ難しといえども、露の命を先立ちて蓬の下に臥す。夕に九相皆な捨つべし、爛れて一兩日を過ぐる者悉く眼を傍(そは)む。
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:ああ、雲鬢を撫でて花の間に<kana>戲(たわ)</kana>ふるは、<kana>朝(あした)</kana>に百媚と別れ難しといえども、露の命を先立ちて蓬の下に臥す。<kana>夕(ゆうべ)</kana>に九相みな捨つべし、爛れて一兩日を過ぐる者悉く眼を<kana>傍(そは)</kana>む。
 
臭三五里行人皆塞鼻。便利二道中白蠕蠢出。手足四支上青蠅飛集。
 
臭三五里行人皆塞鼻。便利二道中白蠕蠢出。手足四支上青蠅飛集。
:臭くして三五里を行く人、皆な鼻を塞ぐ。便利二道の中より白き蠕(むし)蠢き出で、手足四支の上より青蠅飛び集まる。
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:臭くして三五里を行く人、みな鼻を塞ぐ。便利二道の中より白き<kana>蠕(むし)</kana>蠢き出で、手足四支の上に青蠅飛び集まる。
虎狼野干馳四方、置十二節於所々。鵄梟*(馬+周) 鷲啄五藏、投五尺腸於色々。肉落皮剥但生髑髏、日曝雨洗、終朽成土。雲鬢何収。
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虎狼野干馳四方、置十二節於所々。鵄梟鵰鷲啄五藏、投五尺腸於色々。肉落皮剥但生髑髏、日曝雨洗、終朽成土。雲鬢何収。
:虎狼・野干は四方に馳せて、十二節を所々に置きて鵄梟*(馬+周)・鷲啄は五藏を啄(くら)ひて、五尺の腸(はらわた)を色々に投ぐ。肉は落ち皮は剥げ、ただ生(なま)しき髑髏、日に曝し雨に洗はる。終に朽ちて土と成んぬ、雲鬢何(いずく)にか収まる。
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:虎狼・野干は四方に馳せて、十二節を所々に置きて鵄・梟・鵰・鷲は五藏を<kana>啄(くら)</kana>ひて、五尺の<kana>腸(はらわた)</kana>を色々に投ぐ。肉は落ち皮は剥げ、ただ<kana>生(なま)</kana>しき髑髏、日に曝し雨に洗はる。終に朽ちて土と成んぬ、雲鬢<kana>何(いずく)</kana>にか収まる。
 
華貌何壞。眼秋草生。首春苔繁。白樂天云、「故墓何世人。不知姓與名。和爲道頭土。年々春草生云云。」
 
華貌何壞。眼秋草生。首春苔繁。白樂天云、「故墓何世人。不知姓與名。和爲道頭土。年々春草生云云。」
:華の貌(かんばせ)何(いずく)か壞るる。眼には秋草の生(お)ひ、首には春苔の繁し。白樂天の云く、「故墓、何れの世の人ぞ、姓と名を知らず、和して道の頭(ほとり)の土となして、年々に春の草生ふと」云云。
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:華の<kana>貌(かんばせ)</kana>、<kana>何(いずく)</kana>か壞るる。眼には秋草の<kana>生(お)</kana>ひ、首には春苔の繁し。白樂天の云く、「故墓、何れの世の人ぞ、姓と名を知らず、和して道の<kana>頭(ほとり)</kana>の土となして、年々に春の草生ふと」云云。
 
西施顔色今何在。春風百草頭云云。
 
西施顔色今何在。春風百草頭云云。
:西施の顔色、今や何(いず)くに在る。春の風、百草の頭(ほとり)と有るべしと、云云。
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:西施の顔色、今や<kana>何(いず)</kana>くに在る。春の風、百草の<kana>頭(ほとり)</kana>に有るべしと、云云。
 
再生汝今過壯位。死衰將近閻魔王。欲往先路、無資糧。求住中間、無所止。
 
再生汝今過壯位。死衰將近閻魔王。欲往先路、無資糧。求住中間、無所止。
:再び生れて、汝じ今、壯(さかり)なる位を過ぎたり。死し衰ろえて將に閻魔王に近ずかんと、先路に往かんと欲するに資糧なく、中間に住(とど)むを求むるに所止なし。
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:再び生れて、汝いま<kana>壯(さかり)</kana>なる位を過ぎたり。死し衰ろえて將に閻魔王に近ずかんと。先路に往かんと欲するに資糧なく、中間に<kana>住(とど)</kana>むを求むるに所止なし。
 
一切有爲法如夢幻泡影。如露亦如電。應作如是觀。
 
一切有爲法如夢幻泡影。如露亦如電。應作如是觀。
:一切の有爲の法は夢幻(ゆめまぼろし)の泡の影の如し。露の如く電(いなびかり)の如し、かくの如しの觀をなすべし。
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:一切の有爲の法は<kana>夢幻(ゆめまぼろし)</kana>の泡の影の如し。露の如く<kana>電(いなびかり)</kana>の如し、かくの如しの觀をなすべし。
  
  

2014年1月21日 (火) 06:46時点における版

後鳥羽天皇御作無常講式

第二段

擧世如浮蝣。于朝死于夕死別者幾許哉。

世こぞって蜉蝣の如し。朝に死し、夕べに死して別れるものの幾許ぞや。

或昨日已埋*(木+禁)涙於墓下之者。

或いは、昨日已に埋みて、墓の下に涙を拭う者あり、

或今夜欲送泣別棺前之人。凡無墓者人始中終、如幻者一朝過程也。

或いは今夜に送らんと欲して、棺の前に別れを泣く人もあり。およそはかなきものは人の始中終、幻の如くなる一朝の過ぐる程なり。

三界無常也。自古未聞有萬歳人身。一生易過。在今誰保百年形體。

三界無常なり。(いにしえ)よりいまだ萬歳の人身あることいふことを聞かず、 一生過ぎやすし。今に在て誰か百年の形體を保たん。

實我前人前。不知今日不知明日。後先人繁本滴末露。

(まこと)に、我はさき人やさき、今日も知らず明日とも知らず。おくれ先だつ人、本の滴、末の露よりも繁し。

指厚野爲獨逝地築墳墓、爲永栖家。燒爲灰埋爲土。人成之終之資也。

厚野を指して獨り逝地に墳墓を築き、永く栖家となす。燒けば灰となり埋めて土となる。人の成りゆく終りの(すがた)なり。

嗚呼。撫雲鬢戲花間朝。百媚雖難別、先露命、臥蓬下。夕九相皆可捨爛一兩日過者悉傍眼。

ああ、雲鬢を撫でて花の間に(たわ)ふるは、(あした)に百媚と別れ難しといえども、露の命を先立ちて蓬の下に臥す。(ゆうべ)に九相みな捨つべし、爛れて一兩日を過ぐる者悉く眼を(そは)む。

臭三五里行人皆塞鼻。便利二道中白蠕蠢出。手足四支上青蠅飛集。

臭くして三五里を行く人、みな鼻を塞ぐ。便利二道の中より白き(むし)蠢き出で、手足四支の上に青蠅飛び集まる。

虎狼野干馳四方、置十二節於所々。鵄梟鵰鷲啄五藏、投五尺腸於色々。肉落皮剥但生髑髏、日曝雨洗、終朽成土。雲鬢何収。

虎狼・野干は四方に馳せて、十二節を所々に置きて鵄・梟・鵰・鷲は五藏を(くら)ひて、五尺の(はらわた)を色々に投ぐ。肉は落ち皮は剥げ、ただ(なま)しき髑髏、日に曝し雨に洗はる。終に朽ちて土と成んぬ、雲鬢(いずく)にか収まる。

華貌何壞。眼秋草生。首春苔繁。白樂天云、「故墓何世人。不知姓與名。和爲道頭土。年々春草生云云。」

華の(かんばせ)(いずく)か壞るる。眼には秋草の()ひ、首には春苔の繁し。白樂天の云く、「故墓、何れの世の人ぞ、姓と名を知らず、和して道の(ほとり)の土となして、年々に春の草生ふと」云云。

西施顔色今何在。春風百草頭云云。

西施の顔色、今や(いず)くに在る。春の風、百草の(ほとり)に有るべしと、云云。

再生汝今過壯位。死衰將近閻魔王。欲往先路、無資糧。求住中間、無所止。

再び生れて、汝いま(さかり)なる位を過ぎたり。死し衰ろえて將に閻魔王に近ずかんと。先路に往かんと欲するに資糧なく、中間に(とど)むを求むるに所止なし。

一切有爲法如夢幻泡影。如露亦如電。應作如是觀。

一切の有爲の法は夢幻(ゆめまぼろし)の泡の影の如し。露の如く(いなびかり)の如し、かくの如しの觀をなすべし。


南無阿彌陀佛

「後鳥羽天皇御作無常講式」第二段。