2012年12月31日 (月) 21:39時点における版

• 下部に試訳がありますが全く自信はありません。乞う校正。

出典：仏教大学「法然遺文検索用電子テキスト」

試訳作業中

一、三心料簡事

疏（観経疏）の第四について仰せに云く。まず浄土には悪雑わる善は永く以って生ずべからずと知るべし。 ^[2]

ここを以って義分（玄義分）には、「定即息慮以凝心、散即廃悪以修善、廻此二行求願往生」^[3]の文。

また「散善義」に云く、「上輩上行上根人、求生浄土　断貪嗔」^[4]の文。

しかれば即ち、今この至誠心中に嫌う所の虚仮の行とは、余善諸行なり。

三業に精進を勧むといえども、内に貪嗔邪偽等の血毒雑る故に、雑毒の善と名づけて雑毒の行と名づけ往生不可なりと云ふ。

ここを以って、『礼讃』の専雑二行得失中の、雑修の失に云く。「貪嗔諸見煩悩来りて間断す」。

故に此等の雑行を廻らして、ただちに報仏浄土に生ぜんと欲するは、もっとも不可と嫌う道理なり。

しかるに、身口二業を以って外とし、意業一を以って内となさんとは僻事なり。すでに「雖起三業」といえり、あに意業を除かんや。

また「虚仮者」は、狂惑者ということ僻事とす。

すでに「苦励身心」と云、また「日夜十二時　急走急作　如炙頭然者」という　文。

いかんが仮名の行人、この如しかな。まさに是れ雑行の者なり。

つぎに選取するところの真実とは、本願の功徳すなわち正行念仏なり。

ここを以って「玄義分」にいわく。「言弘願者、如大経説、一切善悪凡夫得生者、莫不皆乗阿弥陀仏大願業力　為増上縁也」^[5]云々

ここを以て今の文に「正しく彼の阿弥陀仏因中に菩薩の行を行ぜし時、乃至一念一刹那も、三業の修すところ、皆これ真実心の中に作すに由るべし」云々。

阿弥陀仏因中真実心中作に由るべし行こそ悪雑はらざるの善なるが故に真実と云ふ也。

その義なにを以て知ることを得、次の釈に「凡所施為趣求亦皆真実」^[6]文。この真実を以て施すとは何者に施すと云へば、深心の二種の釈の第一、罪悪生死の凡夫と云へる、この衆生に施すなり。造悪の凡夫、すなわちこの真実に由るべきの機なり。云何が知ることを得る。第二の釈に、「阿弥陀仏四十八願衆生を摂受す」等と云々。かくのごとく心得べきなり云々

深心の中に反「修余善」いう事、余善という事を以って、余行を以って往生すべしと答えんとなすにあらず。

難破の言なれば、指南とすべからずなり。

五種正行中に観察門の事は、十三定善には非ず。

散心念仏の行者の、極楽の有様相像して欣慕なる心なり。

廻向発願心の始に、「真実深信心中廻向」という事、これは三心中の回向という心なり。

過去今生の諸善は、三心已前の功徳を取返し極楽に廻向せよというなり。

全く三心の後に諸善を行ぜよというにはあらずと云々。

白道の事

雑行の中の願往生の心は、白道なれども貪瞋水火のために損(ソコナイ)を披る。

何を以って知ることを得る。釈に「諸（モロモロの）行業を回（向）して直ちに西方へ向かう」と云。云々。

諸行往生の願生の心の白道と聞きたり。

次に専修正行の願生の心をば願力の道と名づく。何を以って知ることを得る。

「仰ぎて釈迦発遣して指して西方に向かはしめたまふことを蒙り、また弥陀悲心をもつて招喚したまふによりて、いま二尊（釈尊・阿弥陀仏）の意に信順して、水火の二河を顧みず、念々に遺るることなく、かの願力の道に乗じて、捨命以後かの国に生ずることを得」已下（以下）の文是れなり。

正行の者、願力の道に乗ずゆえ、全く貪瞋水火(の）損害を受けず。是を以って譬喩の中に云。

西岸の上に人ありて喚ばひて言はく、汝一心正念にしてただちに来れ。 我能く汝を護らん。 衆（スベテ）水火の難に堕することを畏れざれと云々。

合喩の中に云、西岸の上、人有りて喚ひて言くとは、すなわち弥陀の願意に喩う也と云々。

専修正行の人は貪瞋煩悩を恐るべからず也。本願力の白道に乗ぜり。豈に（ドウシテ）火焔水波に損ぜられべけんやと云々。

一、定善中に、自余衆行これ善と名づくといえども、もし念仏に比べば全く比校に非ずなりと云事。

諸行と念仏を比校する時に、念仏勝れ余行劣なりと云へば、いよいよ諍論絶えざる事也。

ただ念仏は本願（の）行也、諸善は非本願（の）行也と云時、真言・法華等の甚深微妙の行も、全く比校に非ず也。この旨を存じて比校の義をば云べき也。

一、無智者も三心具すと云事

一向の心にて念仏申して、疑無く往生せんと思へば、即（わち）三心具足也　云々。

私云、一向の心とは至誠心也。

疑無しとは深信也。

往生してんと思ふ心は回向発願心也。

一、余行はしつべけれとも、せずと思は、専修心也。

余行目出たけれとも身かなはねばえせずと思は、修せねども雑行心也　云々。

一、造悪の機の念仏事

悪を造る身なるがの故に念仏を申也。

悪を造らむ料に念仏申すに非ずと心得べし也云々。

一、善悪の機事

念仏申さむ者は、ただ生れ付きのままにて申べし。

善人は善人ながら、悪人は悪人ながら、本のままにて申すべし。これ念仏に入る故、始めて持戒破戒なにくれと云ふべからす。

只本体ありのままにて申べしと云々。

これに付いて問云。本と聖道門の人持戒なるが、始めて浄土門に帰する時、持戒・持斉を捨てて、専修念仏を修す、即ち破戒の過成ずるか如何。

答。念仏の行者、悪を犯と欲する時に思ふ。

念仏を申さば、これ罪滅すべしと存じて罪を犯す、誠に悪義也。

ただ真言に調伏之法と云事有るに、兼て後調之法を憑む故なりと云事あり。

其様に罪犯さんと兼て本願の滅罪の力を憑む、全く苦しからず事也　云々。

一、悪機を一人置てこの機の往生しけるは謂たる道理なりけりと知る程に習たるを、浄土宗を善く学たるとは云也。

この宗は悪人を手本となす、善人まで摂す也。

聖道門は善人手本となし悪人をも摂す也。　云々

一、行者の生所は心と行とに依る事

ただ念仏は極楽国に生る、ただ余行は懈慢国に生る也。

しかるに念仏余善兼行の者に二有り。

念仏の方に心重きは余行を雑え極楽に生、余行の方に心重きは念仏を助（すける）とも懈慢に生る　云々。

一、我身に三心具すことを知事

大経の説く如し、歓喜踊躍の心ろ即ち発したらば、三心具せる瑞しと知る也。

歓喜とは、往生決定と思故に喜ぶ心也。

往生を不定に歎く位は（不定嘆位）三心を発せず也の者也。

三心を発さざる故　歓喜心無し、これ則ち疑を致す故歎く也云々。

一、一法に万機摂す事

第十八願に十方衆生と云に、十方に漏るの衆生無し、我が願の内に十方を込めむと也。

法照禅師云、彼仏因中立弘誓、聞名念我惣来迎、不簡貧窮将富貴、不簡下智与高才、不簡多聞持浄戒、不簡破戒罪根深、但使廻心多念仏、能令瓦礫変成金　云々。

この文の心は我が身の貧窮にて功徳を造らぬも、下知にて法門を知らぬも、破戒にして罪障を犯すといえども、便廻心多念仏すればと思べしと。云々

一、無智を本と為す事

おおよそ聖道門は智恵を極め生死を離れ、浄土門は愚痴に還りて極楽に生まる、ゆえは聖道門に趣くの時、智慧を瑩(みが)いて禁戒を守る、心性を浄むるを以って宗と為す。

しかるを浄土門に入るの日、智慧をも憑まず、戒行をも護らず、心器をも調えず、只云　甲斐無く無智成ず者、本願を憑み往生を願う也　云々。

この状を御自筆に書て、禅勝房が田舎下せる京つとに取らせむとて給たりと云々。

また云、源空が念仏申すも一文不通の男女に斉しくして申すぞ、全く年来修学したる智恵をば一分も憑まず也。

しかれどもかく知たれば又くるしからぬぞと云々。

一、阿弥陀経一心不乱事

一心とは、何事に心を一にするぞと云、一向念仏申すは阿弥陀仏の心と我心と一に成る也。

天台十疑論に云が如し。世間に慕（こいする）人　能く受て慕する者を機念相投　必ず其事を成ずるが如し。

慕する人とは阿弥陀仏也、恋せらるる者とは我等也。

既に心を一向阿弥陀に発せば、早く仏の心と一に成る也。

ゆえに一心不乱と云。

上の少善根福徳因縁に念をうつさぬ也　云々。

一、阿弥陀経善男子善女人事

これは、名号を執持する身と成故、善男子善女人と云也。下品上生一生十悪凡夫の最後の一称の時、善男子と讃ずるが如し。

実本機は五濁悪世悪時衆生也。

これを以って観念法門　阿弥陀経の今の文釈し、若仏在世、若仏滅後、一切造罪凡夫と云。云々

思い合すべし。

一、定機事

浄土宗を大原に弘し談論せん時に、法門比べに牛角(互角)の論にて事切ならず、機根比べてむには源空勝たりし也。

聖道門は法門は深といえども今の機には叶わず、浄土門は浅きに似たれども今の根かない易しと云し時、人皆承伏しきと　云々。

一、前念命終後念即生事

前念後念とは、ここに命を尽きて後に生を受る時分也、行の念には非ず、往生は称名なり、称名は正覚の業なり。しかれば則ち称名して命終するは、正定の中にして終はる者也　云々。

一、阿弥陀経難信之法事

これは罪悪の凡夫但だ称名に依って往生を得と云事、衆生信ぜず也。

これに依って釈迦諸仏切に証誠云也　云々。

一、戒定慧無き者は念仏すべしと云事

これは無下（論外）の義也。

たとい戒定慧の三学全具したりといえども、本願念仏を修せずば往生を得べからず。

戒定慧無しといえども、一向称名せば必ず往生を得べし也云々。

一、乃至一念即得往生事

我等は一念の機に非ず乃至の機也。　云々

又乃至十念もこの如し。

吾等は十念の機に非ず乃至の機也　云々。

釈に上尽一形至十声一声等　定得往生。

またかくのごとく吾等は下至十声の機には非ず、上尽一形の機也　云々。

一、以五決定往生云事

一弥陀本願決定也、二釈迦所説決定也、三諸仏証誠決定也、四善導教釈決定也、五我等信心決定、以此義故往生決定也云々。

一、若存若亡事

本願に乗ずるを存と云、本願より下るを亡と云也。

乗ずるに二義有り、下るるにも二義有り。

謂く悪業を造る之時と、道心を発すの時也。

造罪の時をるるとは者、このごとき悪を造る身なれば、定んで仏意に背くべしと思はば即をるる也、これを亡と云也。

道心発る時にをるるとは者、このごとき道心発して申す念仏こそ仏意に叶らめと思ふは即をるるにて有也、これを亡と云也。

罪を造る時にも乗たりとは、罪のつくらるるに付ても、この本願なからましかは何がせむ。

この本願乗の故、悪を造るといえども決定往生すへしと思ふは乗たる也、此れを存と云。

また道心の発らむ時にも乗たりとは、このごろときの道心今に始めならず、我れ過去生生にも発しけむ。

しかれども生死離れずの故、知ぬ道心は我を救わず。

ただ仏の願力のみ我をば助け候へき。

されは道心は有りもせよ無くもあれ其をば顧ず、ただ須く名号を称し浄土に生ると思ふは即乗たる也。

此を存と云、云々。

一、平生臨終事

平生念仏に於いて往生不定と思はば、臨終の念仏もまた以て不定也。

平生の念仏を以って決定と思へば、臨終又以決定也云々。

一、一念信心事

信を一念に取、行を一形尽くすべし、一念往生を疑うは、即ち多念みな疑う念の念仏也云々。

又云、一期の終の一念は一人往生す、いわんや一生間の多念の功を積みあに一度の往生を遂げざらん乎。

一念ごとに一人往生の徳有り、なんぞ多念に一の往生無き哉云々。

一、本願成就事

念仏は我所作なり、往生は仏の所作也。

往生は仏の御力にてせしめ給物を、我心にとかくせむと思は自力也、唯だ須く称名に付たるの来迎を待つべし。

一、礼讃のもし能く上の如く念念相続事

往生要集には三心五念四修を指して如上と云也。

これに依てこれを云はば、三心五念四修の中には正助二行を明かす、これを指して念念相続と云也云々。

一、外の雑縁無し正念を得る故事

此れは他の大善なるを見て我が心に怯弱無し云也。

たとひ法勝寺の九重塔を見るとも、我れ一寸の塔をも立てずと疑心も無きを云。

また東大寺の大仏を拝すとも、我れ半寸の仏をもせずと卑下心無きを云。

称名の一念に無上功得を得、決定して往生すべしと思定たるを外雑縁得生念故と云也。

このごとく信ずる者の念仏は、弥陀本願と相応し、釈迦教と相違無し、諸仏証誠に随順するにてある也。

雑行の十三失は此の義を以って得べし心也。

一、請用念仏事

他の請に趣き念仏を修す者、三種の利益有り。

一には自行勇猛也、二には旦那願念を助く、三に能く衆の為に利益を成ず為也。

功徳には体用の二有り、体は自に留り用は他に施す。

妙楽大師の云、善法体を以て人に与すべからず。已上

此は願以此功徳の文釈するの所也云々。

一、善人なお以つて往生す況んや悪人おやの事《口伝これ有》

私云。弥陀本願は自力を以て生死を離るべき方便有る善人の為をこし給はす。

極重悪人　無他方便の輩を哀てをこし給。

しかるを菩薩賢聖も之に付いて往生を求む、凡夫の善人も此願に帰して往生を得、いわんや罪悪の凡夫もっともこの他力を憑むべしと云也。（？？？？）

悪しく領解して邪見に住むべからず、譬ば為凡夫兼為聖人と云が如し。

能く能く心得べし。

初三日三夜読余之、後一日読之、後二夜一日読之。

参　考

1. ↑ 1350年頃成立の西山派の『輪円草』に＜私云、善人尚生況悪人乎。六八誓願如船筏。＞の句がある。
2. ↑ 流通分「五に「若念仏者」より下「生諸仏家」に至るこのかたは、まさしく念仏三昧の功能超絶して、実に雑善をもつて比類となすことを得るにあらざることを顕す。」の文か？
3. ↑ 「定はすなはち慮りを息めてもつて心を凝らす。散はすなはち悪を廃してもつて善を修す。この二行を回して往生を求願す。」◇これを定善・散善の廃悪修善の要門とし、次下の「玄義分」の「弘願といふは『大経』に説きたまふがごとし。 一切善悪の凡夫生ずることを得るものは、みな阿弥陀仏の大願業力に乗じて増上縁となさざるはなし」との弘願門と対比されている。つまり廃悪修善の要門と廃悪修善によらない本願力の弘願の綱格を出す。
4. ↑ 「上輩は上行上根の人なり。浄土に生ずることを求めて貪瞋を断ず。」「上輩総讃」。◇浄土教は元来、下輩下行下根人の為の教えであるから貪嗔を断じないままに浄土に往生する。しかるに、なんまんだぶ一行の救いを領解できない余善諸行(雑行)の者は、貪嗔を断じなければ往生できないという文証。
5. ↑ 「弘願といふは『大経』に説くがごとし。一切善悪の凡夫生ずることを得るものは、みな阿弥陀仏の大願業力に乗じて増上縁となさざるはなし。」「要弘二門判」。この「玄義分」の文を出すことによって、要門とは別に、阿弥陀仏因中の菩薩行が真実であり、一切善悪の凡夫は、その因中の真実に由る大願業力の弘願門があることを示される。これは又、雑行を捨て阿弥陀仏の大願業力に乗ずることでもある。
6. ↑ 「おほよそ施為・趣求、またみな真実なり。」疏の当面では、施為は利他、趣求は自利の、行者の自利利他行をいうのであるが、真実(至誠心)の主体を阿弥陀仏であるとして、その真実を深心釈の一釈の、罪悪生死の凡夫に施為(利他)するというのである。これはまさに破天荒ともいえる親鸞聖人の至誠心釈の訓点は、法然聖人の意を正確に受け継いであられることが解かる。なお、『三部経釈』の至誠心釈にも、疏文のままの至誠心では「すこぶるわれらが分にこえたり。」とされている。